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東京高等裁判所 平成5年(ネ)931号 判決 1995年12月26日

控訴人・被控訴人・附帯控訴人(一審原告) 鈴木保 ほか七〇名

被控訴人・控訴人・附帯被控訴人(一審被告) 国

代理人 住田裕子 倉部誠 安田錦治郎 高橋宏之 榮晴彦 新堀敏彦 東亜由美 藤原一晃 矢沢峰夫 比留間治夫 ほか一八名

主文

一  一審原告ら(ただし、一審原告80青木ソノ、同青木宏之を除く。)の本件控訴、本件附帯控訴及び当審における請求拡張に基づき、原判決主文第二ないし第四項中、右一審原告らと一審被告関係部分を次のとおり変更する。

1  一審被告は、別紙損害金目録記載の各一審原告に対し、それぞれ同目録「賠償期間」欄記載の各期間中(ただし、昭和五四年一〇月から同年一二月までの間を除く。)、一か月当たり同目録「損害賠償金・月額」欄記載の各金員及びこのうち昭和五一年八月三一日までに生じた金員の合計額に対しては同年九月一四日から、平成五年四月一日から同年六月三〇日までに生じた金員の合計額に対しては同年七月一日から、その余の金員(ただし、同目録の「遅延損害金」欄に「除く」旨を記載した金員を除く。)に対してはそれぞれの発生の月の翌月一日から、各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  右一審原告らのその余の請求を棄却する。

二  一審原告80青木ソノ、同青木宏之の本件控訴及び当審における請求拡張部分を棄却する。

三  一審被告の本件控訴を棄却する。

四  訴訟の総費用は、第一項1記載の一審原告らと一審被告との間においては、同一審原告らに生じた費用の一〇分の三を一審被告の負担とし、その余を各自の負担とし、その余の一審原告らと一審被告との間においては全て同一審原告らの負担とする。

五  この判決は、第一項1に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  一審原告ら

1  原判決主文第二ないし第四項を次のとおり変更する。

一審被告は、一審原告らに対し、(一)別紙損害賠償請求額一覧表のD欄記載の各金員、(二)同表A欄記載の各金員に対する昭和五一年九月一四日以降支払いずみまで年五分の割合による金員、(三)同表F欄記載の各期間における各月当たり二万三〇〇〇円に対する当該各月の翌月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員、(四)同表C欄記載の各金員(ただし一審原告12家串正美、同27山口繁美を除く。)に対する平成五年七月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員、(五)平成五年七月一日から平成七年五月二五日(当審口頭弁論終結日)まで一か月三万四五〇〇円及びこれに対する当該各月の翌月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  (ただし、一審原告56、71、78、79、80(二名)、82、83を除く。)

一審被告の本件控訴を棄却する。

3  訴訟の総費用は、一審被告の負担とする。

4  第1項につき仮執行宣言

二  一審被告

1  一審原告らの本件控訴、本件附帯控訴及び当審における請求拡張部分をいずれも棄却する。

2  原判決主文第三項を取り消す。

3  右取消部分にかかる一審原告らの請求を棄却する。

4  仮執行免脱宣言

三  なお、一審原告らの原審における将来の損害賠償請求のうち、原審口頭弁論終結日の翌日である昭和五六年六月一八日から差戻前の控訴審口頭弁論終結日の昭和六〇年八月二八日(ただし、その間に死亡した一審原告26篠田信太郎、同一審原告78室井謙語、同一審原告81小林久米三については、各死亡の日)までの分は当然に現在の請求に変更された。

また、一審原告らは、当審において、原審における過去の損害賠償請求について請求を減縮し(昭和四八年九月九日以降に発生した損害金の請求に限定した。)、他方昭和六〇年八月二九日以降口頭弁論終結の日までに発生した損害金について請求を拡張したものである(ただし、請求減縮について一審原告2、23、46、63、65、90を、請求拡張について一審原告16、22、26、38、78、81、84、90をそれぞれ除く。)。

第二当事者の主張

一  事実主張について

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示の「(当事者の主張)」欄のとおりであるから、これを引用する。

1  一審原告らは、一審原告ら(死亡した一審原告の承継人については右死亡した一審原告について)の居住地域及び居住期間は、<略>のとおりである旨主張したほか、<略>のとおり主張した。

2  一審被告は、<略>のとおり主張した。

二  承継関係の主張について

一審原告12家串松三郎は平成五年一二月五日死亡し、その子である家串正美が承継し、一審原告22藤田武雄は平成元年八月二〇日死亡し、その妻である藤田福與が承継し、一審原告26篠田信太郎は昭和五九年七月三一日死亡し、その妻である篠田房江が承継し、一審原告27山口スエ子は平成五年五月五日死亡し、その子である山口繁美が承継し、一審原告32小柳久夫は昭和六二年二月一八日死亡し、その子である小柳典昭が承継し、一審原告38中野博好は平成四年三月五日死亡し、その子である中野京子が承継し、一審原告47大野誠一は平成元年一一月一六日死亡し、その養子である大野弘光が承継し、一審原告78室井謙語は昭和五九年一一月一日死亡し、その妻である室井モトが承継し、一審原告79綿引すみは平成四年一月一九日死亡し、その子である綿引英雄が承継し、一審原告80青木正雄は平成三年一月一一日死亡し、その妻である青木ソノ、その子である青木宏之(相続分各二分の一)が承継し、一審原告81小林久米三は昭和五九年二月一三日死亡し、その妻である小林キクが承継した。

三  右二に対する一審被告の認否

右一審原告ら主張の承継関係は認める。

第三証拠関係

原審記録、差戻前の控訴審記録並びに当審記録中の各書証目録及び証人等目録の記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一はじめに

一  当審における審判の対象は、当審口頭弁論終結日までに生じた一審原告らの損害の賠償請求、すなわち、上告審判決によって破棄差戻しとなった過去の損害賠償請求部分及び当審における一審原告らの請求拡張部分である。

二  また、一審原告らは人格権及び環境権の侵害を請求の根拠とするが、後記のとおり右主張の内実に即して検討すれば、本件飛行場に離着陸する航空機に起因する騒音等によって、一審原告らが様々な身体的被害を被り、生活上の利益を侵害されたと主張するものと解されるところ、上告審判決は、一審被告による本件飛行場の使用及び供用が一審原告らとの関係で違法な権利侵害ないし法益侵害になるかどうかは、(一)侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合して判断すべきこと、(二)本件に即していえば、(1)被害が定量的には把握し難い精神的な不快感、いら立ち、航空機墜落等に対する不安感等の情緒的被害、睡眠妨害、生活妨害にとどまるものであっても、一審原告らが当然に受忍しなければならないような軽度の被害とはいえないこと、(2)一審原告らの被害の程度と本件飛行場の使用及び供用の公共性ないし公益性との比較検討においては、本件飛行場の周辺住民が本件飛行場の存在によって受ける利益とこれによって被る被害との間に、後者の増大に必然的に前者の増大が伴うというような彼此相補の関係が成り立つかどうかの検討が必要であること、(3)そのほか、一審被告が講じた被害対策及びその効果等右(一)の各判断要素を比較検討して総合的に判断すべきであり、したがって、単に本件飛行場の使用及び供用が高度の公共性を有するということから、一審原告らの被害が受忍限度内にあるということはできない旨判示しているから、本件の違法性は右の判断基準に従って検討すべきである(したがって、一審被告の主張のうち、一審原告らの過去の損害賠償請求についても、統治行為理論又はその趣旨を適用して不適法と解すべきであるとの部分を含め、右の判旨に反する部分は失当である。)。

そこで、まず右判断の前提となる事実関係について検討する。

第二本件飛行場の概要及び一審原告らの居住地域等

一  本件飛行場の概要及び一審原告らの居住地域については、<証拠略>の次に<証拠略>を加え、次のとおり原審口頭弁論終結日後の事情に基づき付加、訂正するほかは、原判決C一頁三行目から同一一頁一〇行目までの判示部分のとおりであるから、これを引用する。

1  <証拠略>によれば、原審口頭弁論終結日後の本件飛行場の使用・供用状況は次のとおりである。

一審被告は、昭和五六年一〇月末頃下総基地から海上自衛隊第五一航空隊の厚木基地移駐を開始した。昭和五六年一二月従来の対潜哨戒機に比べて航続距離、速度ともに格段に優れ、総合情報処理等の能力を備えた大型対潜哨戒機P―3C三機を厚木基地に配備し、その後対潜哨戒システムの運用、研究、要員の教育、部隊の新編・改編を行った。昭和五八年三月P―3Cで新編される海上自衛隊第六航空隊が発足し、平成二年一二月末までにP―3C約二〇機が同基地に配備された。

昭和五七年二月から本件飛行場を使用して、空母ミッドウェー艦載機の夜間離着陸訓練(Night Landing Prac-tice、以下「NLP」という。)が行われるようになった。昭和六一年一一月から空母ミッドウェーの艦載機としてF/A18ホーネットが導入された。平成三年九月空母ミッドウェーから空母インディペンデンスに交代し、これに伴いF―14、S―3が新たに艦載機として本件飛行場に飛来するようになった。

なお、空母ミッドウェー及び空母インディペンデンスの入港の頻度は、(一)平成五年一二月までの入港回数及び日数が、<略>のとおりであり、(二)平成七年四月までの出入港状況は、<略>のとおりである(ただし、右三表には一部他空母に関する記載が含まれる。)。これによると、空母ミッドウェー及び空母インディペンデンスの各年ごとの入港回数、入港日数は、昭和四八年一〇月五日を第一回として同年には合計三回(入港日数五二日)、昭和四九年には一四回(同一七二日)、昭和五〇年には一〇回(同一四七日)、昭和五一年には九回(同一五六日)、昭和五二年には六回(同一七一日)、昭和五三年には九回(一七三日)、昭和五四年には四回(同一二一日)、昭和五五年には六回(同一五〇日)、昭和五六年九回(同一五〇日)、昭和五七年六回(同一八〇日)、昭和五八年七回(同一四六日)、昭和五九年六回(同一二五日)、昭和六〇年五回(同一四二日)、昭和六一年五回(同二七八日)、昭和六二年三回(同一三〇日)、昭和六三年三回(同二〇九日)、平成元年四回(同一二二日)、平成二年九回(同一八八日)、平成三年七回(同一六三日)、平成四年三回(同一五五日)、平成五年六回(同二〇七日)、平成六年一一回(同二四三日)となっており、平均にすると一年の約四割から五割、最も少ない年でも約三分の一、最も多い年は約四分の三に相当する期間、横須賀港に入港していることになる。

2  原判決C一一頁三行目の「原告ら」を「一審原告ら(死亡した一審原告の承継人については右死亡した一審原告についていう。以下同じ。)」に、<略>に改める。

二  本件飛行場の設置・管理及びこれに関する法律関係は、原判決C二〇頁一〇行目の「二九日」を「三〇日」に改め、同二八頁五行目の「各配備され、」の次に「その後第五一航空隊の移駐、部隊編成及び配備機種の変更が行われ、第三航空隊及び第六航空隊についてはP―3Cへの機種転換を終了している。」を加えるほかは、原判決理由中の該当判示部分(原判決C一五頁一一行目から同五七頁五行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

第三侵害行為

一  航空機騒音

1  原判決C七九頁三行目から同一一六頁一〇行目までを引用する。

ただし、次のとおり付加、訂正する。

(一) <略>

(二) 同八二頁一一行目の「明らかにされており」の次に「(もっとも、右<証拠略>には、飛行騒音の持続時間とうるささの実感とは必ずしも正比例しないとの見解があることが記載されている。)」を、同頁最終行末尾に「また、ジェット機の飛行騒音のうちでも、軍用飛行場のように航空機の運航形態、運航回数が一定しないため、騒音発生の規則性、予測可能性を欠くものについては、そのこと自体が騒音による心理的負荷を増幅させる因子になるものと考えられる。」をそれぞれ加える。

(三) 同八八頁六行目の「しかも、」から一二行目の「存する。」までを次のとおり改める。

「例えば、朝鮮戦争の勃発は米海軍機のジェット化を急速に促進し、昭和三〇年ころから厚木基地にもジェット機が配備されるようになった。昭和三二年から本件飛行場滑走路の延長工事が、昭和三四年から同かさ上げ工事が行われ、昭和三五年には大型ジェット機の離着陸が可能となった。以後F―8クルーセイダー戦闘機、A―3スカイウォーリアー攻撃機等が厚木基地周辺上空において頻繁に訓練を行うようになり、激甚な騒音は周辺住民を悩ませ、社会問題になった。住民の集団移転も同年から始まった。昭和四〇年六月ベトナム戦争の激化に伴って、厚木基地に常駐していた第一一海兵飛行大隊は、所属機とともに他の基地に移駐した。また、昭和四五年の米政府の海外基地縮小集約化計画を受けて、昭和四六年七月には基地内の施設の飛行場部分等を海上自衛隊に移管したことから、厚木基地は米海軍航空基地としての機能は低下し、常駐機も漸減していった。この間の騒音は、海上自衛隊の移駐に伴いその所属機の騒音が加わり、また、インドシナ戦争にかかる航空機の飛来が問題になるなど、航空機の離着陸は依然として頻繁であったが、昭和四〇年以前の騒音に比べると、比較的少ない時期である。しかし、昭和四八年二月米軍のアジア戦略の変更に伴い対潜哨戒機P―3Cオライオンが配備され、同年一〇月には空母ミッドウェーが横須賀に入港し、以来同港を事実上の母港としたため、厚木基地には同空母の艦載機が飛来するようになり、一時減少していた騒音が再び激しくなった。そして、空母入港時に集中して騒音が発生するという、従来とは違った騒音の状況となった。このように、昭和四八年一〇月以降、厚木基地に飛来するジェット機の大部分は、横須賀港を母港とする米空母ミッドウェーの艦載機であり、入港二、三日前に洋上から大挙して厚木基地に飛来し、出港二、三日後までに洋上の空母へ帰艦する。入港中は、厚木基地を中心として訓練飛行が行われることから、その騒音により基地周辺の生活環境は極度に悪化する。反対に出港中は比較的穏やかな日が続く。このように、厚木基地周辺の生活環境は空母の動向に大きく左右されるという特徴がある。」

(四) 同一〇一頁四行目の「吉見宅における」から七行目末尾までを次のとおり改める。

「右期間中の吉見宅における騒音発生状況をみると、騒音の最も激しい時期に当たる昭和五五年四月、五月の一日当たり平均測定回数は五〇回前後、同じく平均持続時間は一二分以上であり、他方比較的穏やかな日の多かった同年八月ないし一一月の一日当たり平均測定回数は一六回程度、平均持続時間は五分程度であり、また、右期間全体を通しての平均測定回数は三〇回前後、同じく平均持続時間は七、八分である。」

(五) 同一〇二頁二行目から三行目の「平日と大差ない。」を「平日の三割ないし四割程度である。」に、同五行目の「一〇七回」を「一七〇回」に、同六行目の「一一九回」を「二六五回」にそれぞれ改める。

2  昭和五六年以降の騒音発生状況

(一) <証拠略>によれば、次の事実が認められる。

(1) 滑走路北側

本件飛行場北側の野沢宅、吉見宅及び林間小学校における昭和五六年一月以降平成六年一二月までの騒音発生状況は、<略>のとおりであり<略>、また、野沢宅における騒音発生状況の昭和五六年一月以降平成七年三月までの年ごとの推移は<略>のとおりである。

<1> まず、野沢宅における騒音発生状況をみると、昭和五六年以降の一日当たりの平均騒音測定回数(七〇ホン以上五秒以上の継続音、以下同じ。)は、昭和五六年が約五八回、昭和五七年が約七六回、昭和五八年が約八五回、昭和五九年が九四回、昭和六〇年が約九二回、昭和六一年が約九七回、昭和六二年が約一一二回、昭和六三年が約九五回、平成元年が約一〇四回、平成二年が約一一二回、平成三年が約一〇一回、平成四年が約九三回、平成五年が一〇二回、平成六年が約八五回、平成七年(ただし、一月から三月まで。以下同じ)が約一〇三回であり、そのうち八〇ホン以上の騒音の占める比率は七、八割、九〇ホン以上の騒音の占める比率は二、三割であり、各年の最高音は一一八から一二二ホンの間である。昭和四六年以降昭和五五年までの騒音発生状況と比較すると、一日当たりの平均騒音測定回数は顕著に増加しており(昭和四八年から昭和五四年までと比較すると、昭和五六から五八年までの騒音発生回数でもその二倍ないし三倍である。)、また、一日当たりの平均騒音持続時間も増加傾向を示し、とくに昭和五七年以降平成二年までの増加が著しい。平成二年の一日当たりの平均騒音持続時間は約三五分であり、その後やや減少傾向にあるが、それでも三〇分前後(ただし、平成六年は約二五分)であるから、昭和四八年から昭和五四年までと比較すると約三倍に当たる。

深夜早朝(午後一〇時から翌朝午前六時まで)の騒音発生状況をみると、昭和五八年の一日当たり平均騒音測定回数が〇・八回(一日当たり最高回数九回、一月当たり最高回数四二回、以下同じ。)、最高音が一〇七ホン、同様に昭和五九年が〇・九回(一三回、八三回)、一一一ホン、昭和六〇年が〇・九回(一二回、六〇回)、一一四ホン、昭和六一年が一・一回(八回、七〇回)、一一三ホン、昭和六二年が一・五回(三七回、九六回)、一一〇ホン、昭和六三年が一・三回(三九回、八八回)、一一一ホン、平成元年が一・二回(一一回、九六回)、一二一ホン、平成二年が一・四回(三三回、九三回)、一一〇ホン、平成三年が一・一回(四九回、一四六回)、一一二ホン、平成四年が〇・七回(一四回、六〇回)、一一六ホン、平成五年が〇・八回(一〇回、五九回)、一〇六ホン、平成六年が〇・九回(三三回、八三回)、一〇六ホンである。平均回数としては必ずしも多くはないが、休息、睡眠に当てられるべき時間帯であること、日によっては相当の回数に上ること、最高音が一二〇ホンを超えることがあること等を考えると、軽視できない数値である。

また、日曜日の騒音発生状況をみると、一日当たり平均騒音測定回数は昭和五六年から六〇年までは約一四、一五回(ただし、昭和五八年は一七・九回)であったが、昭和六一年が一九回、昭和六二年から平成六年までは約二一ないし二三回(最高は平成五年の二三・三回)であり、全体としては上昇傾向にある。一日当たり最高回数及び一月当たり最高回数は、それぞれ昭和五六年が五六回、一一四回、昭和五七年が三四回、九二回、昭和五八年が九三回、一八九回、昭和五九年が五四回、一〇二回、昭和六〇年が四三回、一一六回、昭和六一年が五七回、一五三回、昭和六二年が一一〇回、一六九回、昭和六三年が七四回、一七七回、平成元年が七五回、一七一回、平成二年が一四七回、二一四回、平成三年が七〇回、一六二回、平成四年が一〇二回、二〇〇回、平成五年が一二九回、一九七回、平成六年が一一四回、一七三回であり、各年の最高音は一一二ホンから一一八ホンの間である。そうしてみると、日曜日とはいっても、日によっては、騒音発生回数、騒音レベルとも平日と変わらない激甚な騒音に曝されることになる。

<2> 吉見宅における騒音発生状況をみると、一日当たり平均騒音測定回数は、昭和五六年が約二六回、昭和五七年が約三八回、昭和五八年が約四四回、昭和五九年が約四八回、昭和六〇年が約五一回、昭和六一年が約四五回、昭和六二年が約四六回、昭和六三年が約四四回、平成元年が約六四回、平成二年が約七三回、平成三年が約六四回、平成四年が約六一回、平成五年が約六六回、平成六年が約五六回であり、そのうち八〇ホン以上の騒音の占める比率は七、八割(昭和六二年は約八割六分)、九〇ホン以上の騒音の占める比率は二、三割であり(昭和五六年は約三割六分)、各年の最高音は一一四から一二三ホンの間である。昭和五四年(吉見宅及び林間小学校に自動記録騒音計が設置された年)以降の傾向をみると、一日当たり騒音測定回数が昭和五七年、昭和五八年と平成元年に対前年比で大きく増加し、また、一日当たり平均騒音持続時間は昭和五七年と平成元年に対前年比で大きく増加した。一日当たり平均騒音持続時間が最も長いのは、平成二年の二一分一四秒であり、平成六年は一六分四七秒であった。

深夜早朝(午後一〇時から翌朝午前六時まで)の騒音発生状況をみると、昭和五八年が一日当たり平均騒音測定回数が〇・五回(一日当たり最高回数八回、一月当たり最高回数三三回、以下同じ)、最高音が一〇七ホン、同様に昭和五九年が〇・六回(一〇回、五六回)、一〇六ホン、昭和六〇年が〇・七回(一〇回、四〇回)、一一〇ホン、昭和六一年が〇・六回(五回、三七回)、一一一ホン、昭和六二年が〇・七回(二四回、五六回)、一一一ホン、昭和六三年が〇・六回(七回、五八回)、一〇九ホン、平成元年が〇・八回(一〇回、七六回)、一〇八ホン、平成二年が〇・九回(一五回、六三回)、一一四ホン、平成三年が〇・七回(一二回、七九回)、一〇七ホン、平成四年が〇・五回(八回、三九回)、一一二ホン、平成五年が〇・五回(六回、三九回)、一〇九ホン、平成六年が〇・六回(二一回、五八回)、一〇八ホンである。

日曜日の騒音発生状況をみると、一日当たり平均騒音測定回数が昭和五六年から平成元年までは約九ないし一二回、平成二年から平成六年までは約一三、一四回である。一日当たり最高回数及び一月当たり最高回数は、それぞれ昭和五六年が三三回、六三回、昭和五七年が一〇七回、一五九回、昭和五八年が五二回、一一六回、昭和五九年が二八回、六〇回、昭和六〇年が三〇回、六九回、昭和六一年が二九回、六七回、昭和六二年が六三回、九五回、昭和六三年が三〇回、六七回、平成元年が三五回、一二一回、平成二年が九〇回、一三三回、平成三年が五二回、九〇回、平成四年が四四回、一四一回、平成五年が七五回、一二二回、平成六年が五五回、一〇六回であり、各年の最高音は一〇七ホンから一一七ホンの間である。

深夜早朝、日曜日の騒音発生状況とも、野沢宅と比較すると、軽減されてはいるけれども、軽視できない数値であることには変わりがない。

<3> 林間小学校における騒音発生状況をみると、一日当たりの平均騒音測定回数は、昭和五六年が約二一回、昭和五七年が約二六回、昭和五八年が約三〇回、昭和五九年が約三一回、昭和六〇年が約三五回、昭和六一年が約三一回、昭和六二年が三〇回、昭和六三年が約二八回、平成元年が約四一回、平成二年が約四五回、平成三年が約四二回、平成四年が約三五回、平成五年が約四〇回、平成六年が約三六回であり、そのうち八〇ホン以上の騒音の占める比率は、平成六年の約九割を除けば、大体七割から八割であり、九〇ホン以上の騒音の占める比率は、昭和五六年が約三割三分、昭和六〇年、六一年、平成元年が一割七、八分であったが、そのほかは大体二割から三割である。各年の最高音は一一四ホンから一一八ホンの間である。一日当たり騒音測定回数は、昭和五七年から増加傾向が明瞭になり、昭和五八年には約三〇回になり、平成二年に最高回数約四五回を記録した。一日当たり平均騒音持続時間も、昭和五七年からはっきりした増加傾向が現れ、同年から昭和五九年までが九分台、昭和六〇年から昭和六二年までが一〇分台、昭和六三年に一時的に八分台に下がったが、平成元年から一段と増加し同年が一二分四三秒、平成二年が最高の一五分二三秒を記録し、その後平成六年まで概ね一三分台(ただし、平成四年は一一分台)で推移している。

深夜早朝(午後一〇時から翌朝午前六時まで)の騒音発生状況をみると、昭和五六年が一日当たり平均騒音測定回数が〇・三回(一日当たり最高回数一三回、一月当たり最高回数四三回、以下同じ。)、最高音が一一二ホン、同様に昭和五七年が〇・三回(七回、二三回)、一〇八ホン、昭和五八年が〇・五回(八回、二七回)、一〇三ホン、昭和五九年が〇・六回(一三回、五七回)、一〇六ホン、昭和六〇年が〇・五回(一〇回、四〇回)、一〇九ホン、昭和六一年が〇・七回(八回・三五回)、一〇七ホン、昭和六二年が〇・八回(二九回、七九回)、一〇八ホン、昭和六三年が〇・七回(七回、五七回)、一〇六ホン、平成元年が〇・九回(九回、六六回)、一〇七ホン、平成二年が〇・九回(一四回、五六回)、一〇八ホン、平成三年が〇・九回(四九回、八四回)、一〇七ホン、平成四年が〇・五回(九回、三三回)、一〇八ホン、平成五年が〇・五回(六回、三五回)、一一一ホン、平成六年が一・〇回(六八回、八〇回)、一〇四ホンである。

日曜日の騒音発生状況をみると、一日当たりの平均騒音測定回数が昭和五六年から昭和六三年までは約七ないし一〇回、平成元年から平成六年までは約一〇ないし一三回である。一日当たり最高回数及び一月当たり最高回数は、それぞれ昭和五六年が二六回、五八回、昭和五七年が四二回、六七回、昭和五八年が二九回、八九回、昭和五九年が一八回、三九回、昭和六〇年が三二回、七三回、昭和六一年が三七回、六八回、昭和六二年が五五回、八〇回、昭和六三年が三〇回、六五回、平成元年が七八回、一一一回、平成二年が八四回、一二二回、平成三年が三七回、八六回、平成四年が三三回、八九回、平成五年が四〇回、六二回、平成六年が四一回、八七回であり、各年の最高音は一〇七ホンから一一六ホンの間である。

深夜早朝、日曜日とも、日によっては、相当の頻度で激甚な騒音に曝されることになる。

(2) 滑走路東側

本件飛行場東側の尾崎宅における騒音発生状況は、<略>のとおりであり、一日当たり平均騒音測定回数は、昭和五七年が三八回、昭和五八年が約三七回、昭和五九年が約三〇回、昭和六〇年が約三四回、昭和六一年が約三六回、昭和六二年が約六六回、昭和六三年が約六九回、平成元年が約八一回、平成二年が約七八回、平成三年が約七一回、平成四年が約四六回、平成五年が約五四回、平成六年が約四四回である。そのうち八〇ホン以上の騒音の占める比率は、昭和五七年から昭和六一年までが約六割から七割、昭和六二年が約五割、昭和六三年から平成三年までが三割強から四割弱、平成四年及び平成五年が六割弱、平成六年が五割弱である。九〇ホン以上の騒音の占める比率は、概ね一割台後半から二割台前半であるが、最も比率の高いのは昭和六一年の約二割六分、最も低いのは平成六年の約一割五分である。各年の最高音は一〇四ホンから一一二ホンの間である。尾崎宅においても昭和五七年以降一日当たり平均騒音測定回数の顕著な増加傾向が認められ、最高は平成元年の約八一回である。また、一日当たりの平均騒音持続時間も、昭和五二年には三分四四秒であったものが、昭和五七年、五八年には約一四、一五分、昭和五九年、六〇年が約一一分、昭和六一年以降は大幅に増加して約二三分から三二分の間を推移している。

深夜早朝(午後一〇時から翌朝午前六時まで)の騒音発生状況をみると、昭和五七年の一日当たり平均騒音測定回数が〇・五回(一日当たり最高回数一一回、一月当たり最高回数三五回、以下同じ。)、最高音が九〇ホン、同様に昭和五八年が〇・四回(八回、四九回)、一〇三ホン、昭和五九年が〇・四回(一三回、四一回)、九五ホン、昭和六〇年が一・二回(二三回、一一二回)、九七ホン、昭和六一年が〇・八回(六回、五六回)、一〇四ホン、昭和六二年が一・三回(五七回、八〇回)、一〇一ホン、昭和六三年が二・四回(二七回、一四四回)、九五ホン、平成元年が二・九回(三〇回、二〇八回)、九九ホン、平成二年が二・三回(五八回、一二七回)、一〇一ホン、平成三年が一・六回(三二回、一二九回)、九六ホン、平成四年が〇・六回(一二回、六五回)、一〇三ホン、平成五年が〇・九回(三七回、七九回)、一〇三ホン、平成六年が一・〇回(二九回、一二一回)、一〇二ホンである。

日曜日の騒音発生状況をみると、一日当たり平均騒音測定回数が昭和五七年が約八回、昭和五八年が約一〇回、昭和五九年が六回、昭和六〇年、六一年が一三回弱、昭和六二年が約一八回、昭和六三年から平成三年までが約二〇ないし二五回、平成四年から平成六年までが約一一回である。一日当たり最高回数及び一か月当たり最高回数は、それぞれ昭和五七年が二一回、六六回、昭和五八年が五三回、一〇一回、昭和五九年が二一回、四五回、昭和六〇年が一〇七回、一六五回、昭和六一年が四八回、九三回、昭和六二年が七八回、一八九回、昭和六三年が四一回、一三三回、平成元年が七〇回、一九一回、平成二年が一〇五回、一六〇回、平成三年が五六回、一一二回、平成四年が六八回、一一二回、平成五年が四九回、九四回、平成六年が八三回、一〇七回であり、各年の最高音は九五ホンから一一五ホンの間である。

深夜早朝、日曜日とも、軽視できない数値というべきである。

(3) 滑走路南側

本件飛行場南側の月生田宅における騒音発生状況は、<略>のとおりであり、一日当たり平均騒音測定回数は、昭和五六年が約三四回、昭和五七年が約四五回、昭和五八年が約四六回、昭和五九年が約五六回、昭和六〇年が約五七回、昭和六一年が約七八回、昭和六二年が約八四回、昭和六三年が八〇回、平成元年が約九一回、平成二年が約九二回、平成三年が約八四回、平成四年が約五四回、平成五年が五九回、平成六年が四四回である。そのうち八〇ホン以上の騒音の占める比率は、昭和五六年が約六割、昭和五七年、五八年が約七割、昭和五九年ないし昭和六一年が約五割、昭和六二年ないし平成三年までが約四割、平成四年ないし六年までが約五ないし六割である。九〇ホン以上の騒音の占める比率は、昭和六〇年から平成二年までは一割前後、その余の期間は一割から二割の間である。各年の最高音は一〇九から一二一ホンの間である。一日当たり平均騒音測定回数は、昭和五九年ころから顕著に増加し始め、最高回数は平成二年の約九二回である。一日当たりの平均騒音持続時間は、昭和五六年が約一〇分、昭和五七年から昭和六〇年までが約一四分から一六分、昭和六一年から平成三年までと平成五年が約一九分から二四分、平成四年が約一七分、また、平成六年は約一三分であった。

深夜早朝(午後一〇時から翌朝午前六時まで)の騒音発生状況をみると、昭和五六年の一日当たり平均騒音測定回数が〇・六回(一日当たり最高回数一三回、一月当たり最高回数三二回、以下同じ。)、最高音が九七ホン、同様に昭和五七年が〇・八回(八回、四四回)、九四ホン、昭和五八年が〇・七回(七回、三七回)、一〇五ホン、昭和五九年が〇・六回(八回、三九回)、九五ホン、昭和六〇年が〇・九回(二四回、六七回)、一〇一ホン、昭和六一年が一・四回(一三回、八〇回)、一〇三ホン、昭和六二年が一・四回(一九回、一二五回)、一〇一ホン、昭和六三年が〇・九回(四四回、七一回)、九九ホン、平成元年が一・一回(一一回、一〇八回)、一〇〇ホン、平成二年が一・一回(二二回、七五回)、一〇八ホン、平成三年が〇・八回(一一回、六三回)、一〇三ホン、平成四年が〇・四回(一三回、三九回)、一〇八ホン、平成五年が〇・五回(一六回、三二回)、一〇四ホン、平成六年が〇・三回(三八回、六六回)、一〇六ホンである。

日曜日の騒音発生状況をみると、一日当たりの平均騒音測定回数は、昭和五六年が約一〇回、昭和五七年から昭和六〇年までが約一五、一六回(ただし、昭和五九年は約一一回)、昭和六一年から平成三年までは約一九ないし二三回(ただし、昭和六二年は約一七回)、平成四年から平成六年までは約一〇、一一回である。一日当たり最高回数及び一月当たり最高回数は、それぞれ昭和五六年が三四回、七一回、昭和五七年が三九回、一〇五回、昭和五八年が七六回、一八三回、昭和五九年が二六回、六六回、昭和六〇年が三九回、一〇四回、昭和六一年が九九回、一六五回、昭和六二年が八八回、一五六回、昭和六三年が一〇九回、一八七回、平成元年が七五回、一八七回、平成二年が一一九回、一七〇回、平成三年が一二二回、一八一回、平成四年が六一回、一一一回、平成五年が四二回、七八回、平成六年が七七回、九三回であり、各年の最高音は一〇二ホンから一一四ホンの間である。

深夜早朝、日曜日とも、軽視できない数値というべきである。

3  NLPについて

原審口頭弁論終結日後の騒音発生状況をみる場合に、昭和五七年二月以降本件飛行場において実施されるようになったNLPによる影響を検討しておく必要がある。

<証拠略>によれば、次の事実が認められる。

(一) NLPによって発生する飛行騒音の特殊性

厚木基地におけるNLPは、午後六時ころから午後一〇時ころまでの時間帯に行われており、訓練を行うのは、空母ミッドウェー又は空母インディペンデンス艦載機F/A18、A―6、EA―6B、E―2C、F14等である。後記の訓練の特殊性から他に類のない激烈な騒音を発生させ、しかも、家族の団らん、休養、睡眠等の家庭生活の主要な時間帯に集中的かつ長時間にわたって訓練が行われることから、厚木基地周辺住民に大きな苦痛を与えており、基地騒音問題の元凶といわれる所以である。

(二) 訓練の内容

陸上基地への着陸に比べて、空母への着艦ははるかに高度な技量を必要とするため、米海軍では艦載機のパイロットの資格として発着艦技能資格制度を採用している。この資格を取得しても、パイロットは訓練により常に練度を保つ必要があり、特に長期間の休養休暇後空母に帰艦するには、陸上での夜間着艦訓練が必要不可欠といわれている。空母との離着艦の基本は、時速〇の状態から二・五秒後に時速三〇〇キロメートルのスピードで離艦するステーム・カタバルト発進とアレスティング・フックを使用しての制動着艦である。本件飛行場の滑走路が約三キロメートルあるのに対し、ミッドウェーの着艦甲板は約二〇〇メートルであり、しかも、空母は相対風速を得るために高速で風上に向かって進行し、波が高ければ揺れながら進行することになる。そこへ機体の後部のフックを降ろし、甲板に張られているアレスティング・ワイヤーに引っかけて急制止させなければならない。ワイヤーは三本張られているが、その間隔は一二ないし一三メートル程度であり、理想的なタッチング・ポイントである第二ワイヤーの手前約一・二メートルに着艦する場合には、甲板のセンターラインから左右数フィートの誤差しか許されず、艦尾に接近する際の機体の高度誤差の許容範囲も僅か三メートル以内である。艦載機パイロットは、機体を甲板に叩きつけるようにして降下してくる。フックがワイヤーを確実につかまえるためのテクニックである。引っかけ損なった場合は、甲板から飛び上がって、再び着艦を試みる。それでも、昼間や海がなぎの時は比較的問題が少ないが、夜間荒天の海上を進行する空母へ着艦する場合には、細心の注意と超高度な技量が必要となる。空母の司令塔はじめ甲板上のライトはほとんど消されており、僅かに艦尾燈と着艦甲板上のセンターライト、それと着陸誘導装置のライトのみを頼りに自分で降りることが要求される。このような能力を涵養するためNLPが必要不可欠なのであり、昼間の訓練を一〇〇回行ったとしても夜間着艦の技能は養成されないといわれている。

陸上基地での訓練は、滑走路の一部を空母の飛行甲板に見立て、滑走路の定められた一点を基点に離着陸を行う。夜間における空母への着艦を想定して行うから、艦載機は基地上空に周回し、そして、地上の誘導ライトを頼りに大きな推力を維持しつつ、滑走路に進入し、着地後直ちに急上昇し復航する。この一連の訓練飛行を繰り返すことにより、着艦技量を維持、向上させている。本件飛行場における訓練の飛行コースは、概ね次のとおりである。南風の場合は、滑走路南端近くで急上昇し、綾瀬市上空に急旋回して基地西側上空を飛行し、海老名市、座間市あるいは相模原市上空を経て、大和市中央林間、南林間、西鶴間及び上草柳上空を通過し、滑走路北側の基点着地後同様に上昇する。F/A18、E―2Cはこれより小回りをする。北風の場合はこれと逆で、滑走路北端近くで急上昇し、海老名市、綾瀬市上空へ向かい、基地西側を飛行し、藤沢市上空から滑走路に向かう。通常二機が交互に着艦の訓練を行い、これを一機あたり六回程度行っているようであり、一周に要する時間は概ね三分から六分程度、一機の訓練は約三〇分で終了し、次の訓練機に交代させているものと考えられる。

(三) NLPの実施状況

(1) 厚木基地におけるNLPは、昭和五七年二月以降実施されるようになったが、同年一二月以降米軍から大和市及び綾瀬市に対し、また昭和五八年五月以降一審被告からも周辺各市に対し、それぞれ事前通告が行われるようになった。必ずしも公表されたとおり訓練が実施されているわけではなく、公表された計画にはあっても訓練を実施しない場合や計画より短時間のうちに訓練が終了することもある(反対に、平成六年に入ってから通告なしにNLPが実施された事実が、<証拠略>によって認められ、右実施期間に当たる平成六年七月一四日から同月一八日までの間の野沢宅における騒音発生状況は、<略>のとおりであったことが、<証拠略>によって認められる。)。

(2) NLP実施期間及び騒音発生状況

<1> 一審被告による事前通告が行われるようになった昭和五八年五月以降平成五年までの通告期間内のNLP実施状況は<略>のとおりである。

<2> NLP実施期間中の騒音発生状況をみると、例えば昭和六〇年五月九日、一〇日、同年一一月一一日における野沢宅の騒音発生状況は、<略>のとおりであり(ただし、NLP実施日の記載中「昭和60年11月1日」を「昭和60年11月11日」に改める。)また、昭和五九年七月一七日から同年八月二五日までのNLP実施期間中(実施日数二一日間)、野沢宅、林間小学校、月生田宅における騒音発生状況は、<略>のとおりであり、昭和五九年九月一〇日から同年一〇月一三日までの野沢宅における騒音発生状況は<略>のとおりである。これによると、NLPが実施される日は午後六時ころから午後一〇時までの実施時間帯はもとより、その他の時間帯においても飛行回数が多く、昭和五九年七月一七日から同年八月二五日までのNLP実施期間中、野沢宅において一日の測定回数三〇〇回以上を記録した日が四日あり、持続時間が一時間を超える日は一三日、最も長時間の日は一時間が四七分余(八月一〇日)に及んでいる。昭和六〇年五月九日と同年一一月一一日の騒音発生状況はさらにひどく、野沢宅における一日の測定回数は四〇〇回を超え、同年一一月一一日の測定回数は四八六回にも及び、持続時間も約二時間半から二時間五〇分余りに上っている。

昭和五九年七月一七日から同年八月二五日までのNLP実施期間中(実施日数二一日間)、一日当たり平均騒音測定回数は、野沢宅で二三四回、林間小学校では七二回、月生田宅で一四五回となっており、騒音測定回数において当該年の年間平均を大幅に上回っており、また、九〇ホン以上の騒音測定回数がそれぞれ七六回(総騒音測定回数に占める割合は、三割二分、以下同じ。)、三〇回(四割二分)、三八回(二割六分)であって、騒音レベルにおいても年間平均に比し、高くなっている。

そして、その後状況はさらに悪化し、NLP実施期間中の昭和六二年一月六日、野沢宅において、<略>のとおり、一日の総騒音測定回数として最高の実に六二七回(持続時間約三時間四四分、八〇ホン以上の騒音の占める割合約六割七分、九〇ホン以上の騒音の占める割合約三割一分)を記録し、そのうち、NLP通告時間帯(午後五時三〇分から午後一〇時まで)における騒音測定回数二七三回(単純平均して五九秒に一回の割合)であった。

また、大和市のみならず、本件飛行場周辺の綾瀬市、藤沢市、海老名市、相模原市等の各測定地点における、一日平均の七〇ホン以上の騒音測定回数も昭和五七年以降増加傾向を示しており(ただし、本件飛行場滑走路北端から約二・八キロメートル北西の座間市の測定地点では、一日平均騒音測定回数が昭和五七年から昭和五九年まで増加傾向を示したが、その後昭和五六年の回数を下回る年も多くなっている。)、NLPによる航空機騒音の地域的拡大を示すものと考えられる。

(四) 代替訓練施設の問題

(1) ミッドウェー艦載機によるNLPは、横須賀が母港化された昭和四八年から米軍の三沢、岩国両基地で開始されたが、これらの基地が横須賀から遠距離であること、支援要員の増加、維持修理・補給面での負担等の問題から、昭和五七年二月から厚木基地において実施されるようになった。神奈川県や関係七市は、早い段階から一審被告や米軍に対し、NLPの中止や代替訓練施設の設置を繰り返し要請し、一方、米軍も昭和五八年八月一審被告に対し、厚木基地に代わる施設として、<1>横須賀、厚木から一〇〇ノーティカルマイル(約一八〇キロメートル)以内であること、<2>一定規模(長さ一八〇〇メートルから二四〇〇メートル、幅一五〇メートル等)以上の滑走路があること等の条件を備えた飛行場の提供を要請した。一審被告は、調査検討の結果三宅島に代替飛行場を建設する計画を立てたが、三宅島村議会が最終的に同飛行場の誘致に反対する決議をしたため、右計画の実現は容易ではなく、相当の期間を要するものと考えられる。他方、平成元年一月一審被告と米軍との間で、本件飛行場の代替施設を三宅島に設置するまでの暫定措置として、本件飛行場の騒音軽減のため、硫黄島で艦載機着陸訓練を実施することで基本的了解に達し、平成元年度から滑走路関連施設等同訓練に必要な施設の整備に着手し、総額一六六億八六〇〇万円の費用を投じて、平成五年三月末同施設を完成させた。同年九月には同施設の運用体制も整って、最初のフルスケールでのNLPが実施された。

(2) 右代替施設の完成・運用により、本件飛行場におけるNLP実施日数及び当日の騒音発生状況は相当程度改善された。例えば、右代替施設との分散訓練が行われた平成五年九月一三、一四日、一六日、一七日の四日間の本件飛行場の騒音発生状況を野沢宅についてみると、通告時間帯(午後七時から午後一〇時まで)における騒音測定回数は合計二五三回、最高音八九ホンであり、大和市に寄せられた苦情件数も五件にすぎなかったが、悪天候のため硫黄島が使用できなかった同年一一月九日から同月一六日まで六日間の本件飛行場におけるNLP実施の際には、通告時間帯(午後六時から午後一〇時まで)における騒音測定回数は合計七一〇回、最高音一一二ホンであり、苦情件数も一一三件に上った。また、平成六年の通告期間中のNLP実施日数は五日(同年五月一八、一九日、二三ないし二五日)と減少している(もっとも、同年七月一四ないし一六日、一八日に通告なしのNLPが実施されたことは前記のとおりである。)。

しかしながら、以前と比較すれば相当程度改善されたとはいっても、右の平成五年九月一三、一四、一六、一七日の騒音発生状況を見た場合でも、四日間の平均で、午後七時から一〇時までの三時間に約六三回、三分に一回の割合で七〇ホン以上、最高音八三ないし八九ホンの騒音に曝されるのであるから、相当激しい騒音発生状況であることに変わりはない。

また、平成六年についても、NLP実施日数こそ大幅に減少したとはいうものの、野沢宅に例をとって一年を通しての騒音発生状況をみると、一日当たり平均騒音測定回数一〇〇回を超える日が、一月は三日(一日当たり最高回数一四一回、最高音一一六ホン、以下同じ)、二月が一日(一一八回、一一四ホン)、三月が一〇日(二八二回、一一八ホン)、四月が二二日(二五八回、一一八ホン)、五月が一六日(三〇六回、一一七ホン)、六月が八日(一四八回、一一七ホン)、七月が八日(二四〇回、一一七ホン)、八月が七日(一七〇回、一一三ホン)、九月が九日(一六八回、一一八ホン)、一〇月が一〇日(一九四回、一一八ホン)、一一月が六日(二〇〇回、一一九ホン)、一二月が一七日(三九二回、一一八ホン)であるから、平均すると大体三日に一回の割合で一日当たり一〇〇回を超える七〇ホン以上持続時間五秒以上の騒音に曝されることになり、最も騒音の激しい日(一二月一日)は、測定回数が三九二回に上っており、最高音も一一三ホンから一一九ホンの間であるから、相当激甚な騒音発生状況が続いているものというべきである。

そのほか、野沢宅に例をとって年間の騒音測定回数及びそのうちNLPによる騒音測定回数の推移をみると<略>のとおりであり<略>、NLPによる騒音の全体に占める割合は、昭和六〇年から平成五年までの平均で一一パーセント強であるから、これによると、NLPの分散訓練が行われても、当然に本件飛行場周辺地域における騒音発生回数が大幅に減少するものと期待することはできないというべきである。

また、硫黄島の代替施設は、厚木から約一八〇〇キロメートルの距離にあって、米軍が一審被告に要請した代替飛行場としての条件に適っておらず、右施設はあくまで暫定的措置とされているから、今後硫黄島でどの程度NLPが実施され、本件飛行場における訓練がどの程度減少するかは、米軍の運用如何にかかっており、少なくともNLPの硫黄島への完全移転が実現される見通しは立っていない。

4  まとめ

以上の各認定事実及び前掲各証拠によって、本件飛行場の使用・供用状況の変遷と周辺地域における騒音発生状況の推移等を概観すると、次のとおりである。

(一) 昭和二五年一二月に米海軍厚木基地が本件飛行場に設置され、昭和二九年から三〇年にかけて、第一一海兵飛行連隊が同基地に移駐した。昭和三三年から三五年にかけて、滑走路の拡幅改修工事が行われ、大型ジェット機の離着陸が可能になり、ジェット戦闘機をはじめとする各種米軍航空機が本件飛行場を頻繁に利用するようになった。昭和三五年ころジェット戦闘機の訓練等によって発生する騒音が社会問題となり、一部に住民の集団移転もみられた。神奈川県や地元市町が、騒音調査結果に基づき一審被告及び米軍に騒音軽減措置を要請し、昭和三八年九月「厚木飛行場周辺の航空機の騒音軽減措置」が日米合同委員会で合意された。(1)飛行活動についての時間制限(<1>原則として午後二二時から翌朝六時までの飛行及びグループ・ラン・アップの禁止、<2>日曜日の飛行訓練を最小限に止めること)、(2)アフター・バーナーの使用制限、ジェットエンジン試運転時間の制限、消音器の使用等を骨子とするものであったが(詳細は、本判決第五の二において引用する、原判決第六、三2(二)(1))、例外規定が多く、自主規制による騒音防止効果が十分達成されたとはいえない状況であった。

(二) 昭和四〇年六月ベトナム戦争の激化に伴い、第一一海兵飛行連隊が所属機七〇機とともに他の基地に移動した。以後昭和四八年夏ころまでは比較的騒音の少ない時期である。この間の昭和四四年七月いわゆるニクソン・ドクトリンが発表され、昭和四五年一二月日米安全保障協議委員会において、在日米軍の整理・統合計画、基地の縮小、返還並びに共同使用等が合意された。しかし、その後在日米軍の整理・統合計画は順調に進まず、かえって、昭和四七年ころから横須賀基地等の機能強化が顕著になってきた。

(三) 昭和四八年一〇月米海軍第七艦隊所属空母ミッドウェーが横須賀港に初入港し、その後同港を母港とするようになった。空母艦載機は、空母入港中は発着艦できないため、入港前に洋上から飛来し、出港後に帰艦する。その際に大きな騒音を発生するほか、本件飛行場における訓練飛行によっても激しい騒音が発生した。また、三沢、岩国基地に訓練に赴くときの発信及び帰投時の着陸の際の騒音が特に激しかった。なお、昭和五四年一〇月一日から同年一二月二〇日までの間本件飛行場滑走路の改修工事のため一時的に滑走路を閉鎖した。

(四) 昭和五六年一二月一審被告は、厚木基地に大型対潜哨戒機P―3Cを配備し、昭和五七年三月ころ下総基地から海上自衛隊五一航空隊を厚木基地に移駐させ、昭和五八年三月P―3Cで新編された海上自衛隊第六航空隊を発足させた。

昭和五七年二月からミッドウェー艦載機によるNLPが、本件飛行場で実施されるようになり、厚木基地の場周経路を使用し、日没から午後一〇時ころまで実施され、その間周辺住民は一分三〇秒ないし二分三〇秒に一回の割合で激しい飛行騒音に曝されることになった。

昭和五四年の滑走路改修工事以後上昇傾向が明らかとなっていた騒音測定回数は、昭和五七年以降急激に悪化した。野沢宅に例をとってみると、昭和四八年から昭和五四年ころまで年間約一万回から約一万六〇〇〇回(一日平均騒音測定回数は右の七年間で約三八回)であった騒音測定回数は、昭和五五年に約一万九〇〇〇回、昭和五六年には二万回を超え、昭和五七年に約二万八〇〇〇回、昭和五八年以降は三万回を超え、昭和六二年と平成二年には四万回を超えている。一日平均では九〇回から一〇〇回、多い年では一一二回に及んでおり、一日に二〇〇回、三〇〇回のこともしばしばある。そして、昭和六二年一月六日には、一日の総騒音測定回数として最高の実に六二七回を記録し、NLP通告時間帯(午後五時三〇分から午後一〇時)における騒音測定回数は二七三回、単純平均して五九秒に一回の割合であった。また、騒音測定回数の増加に伴って、昭和五五年以降の騒音持続時間の増加傾向も顕著である。最高音は一二〇ホン前後にもなり、音量別割合では、八〇ホンが七割以上を占め、そのうち九〇ホンはほぼ二割を占めている上、一〇〇ホン以上という巨大な音量の騒音も一〇パーセント前後に及ぶ。NLPが硫黄島において分散実施されるようになった後の平成六年でも、一日当たり平均騒音測定回数は約八五回、騒音持続時間は約二五分であるから、今後とも楽観の許されない状況が続いている。

5  WECPNLによる騒音評価

(一) コンター図

<証拠略>により、地域区分等の線引部分は大和市基地対策課が作成し、その余の部分は一審原告らが作成したものと認められる<証拠略>によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(1) 一審被告は、昭和五六年一二月二一日総理府令第四九号により生活環境整備法四条による第一種区域の基準たるWECPNL値(以下「W値」という。)が「八〇」から「七五」に改正されたことに伴い、昭和五九年五月三一日本件飛行場に係る第一種区域、第二種区域(W値で九〇以上)の追加指定、第三種区域(W値で九五以上)の指定を行い、これを告示した(防衛施設庁告示第九号)。右告示に当たり、その後のNLPの実施や海上自衛隊のP―3C対潜哨戒機の運航等による影響を考慮して、全面的な騒音状況の調査を行い、右調査結果に基づきコンター図(等音圧線)を作成し、道路等の現地の状況を勘案して若干の調整をした上、右の区域指定を行った。これにより第一ないし第三種区域の範囲は、<略>のとおりとなった。第一種区域は昭和六一年九月一〇日にも追加指定が行われ、現行の区域となった(右の追加指定は、本件飛行場の西側部分に第一種区域が拡大されたものであって、<略>の範囲では変動がない。)。

(2) 右の改正により住宅防音工事助成の対象となる第一種区域内の戸数は飛躍的に増加し、また、工法の基準について、新たにW値八〇以上の地域は第Ⅰ工法(防音壁、防音天井、防音サッシ、換気扇、冷暖房機を工事内容とする。)、同八〇未満の区域は第Ⅱ工法(防音サッシ、換気扇、冷暖房機を工事内容とする。)と定められ、W値ごとに異なった仕方書によることになったところ、一審被告は、右の工法区分については、前記(1)のコンター図の基礎となった調査結果にはよらず、実際に工事を施工する時点における騒音状況を基準とすることとした。そして、予算上の制約等を考慮して、W値八〇以上の地域から優先的に防音工事を実施することとし(その余の地域については、逐次完了に努力する。)、関係自治体に対し、年度実施計画に基づく計画戸数を通知し、助成申請人を募集した。一審被告が昭和五九年八月関係自治体に示した防音工事(第Ⅰ工法による)募集の対象地域は、<略>の「防音工事募集ライン」(以下、「防音工事募集ライン」という。)の内側であり、また、昭和六三年七月一八日には一審被告によって<略>のとおり工法区分線(以下「工法区分線」という。)が定められた(右の防音工事募集ライン及び工法区分線の告示、縦覧はなされていないが、関係自治体には告知されている。)。したがって、これらの線の内側の地域は、それぞれの時点においてW値八〇以上の地域に属するものと考えられる。

(3) これまでの第一種ないし第三種区域指定の変遷及び工法区分線の位置関係は<略>のとおりであり、また、昭和五四年九月五日及び昭和五六年一〇月三一日告知に係る区域指定の基礎となったコンター図は<略>のとおりである。これらの図面によって等音圧線の移動をみると、W値七五以上の改正後の第一種区域については、昭和六一年九月一〇日告示に係る区域の方が昭和五九年五月三一日告示に係る区域よりも範囲が広く、W値八〇以上の昭和五六年一〇月三一日告示に係る第一種区域と工法区分線の第Ⅰ工法区域を比較すると、後者の方が範囲が広く、W値九〇以上の第二種区域については、昭和五九年五月三一日告示に係る区域の方が昭和五六年一〇月三一日告示に係る区域よりも範囲が広く、また、工法区分線については、昭和五九年五月三一日告示に係る第一種区域(W値七五)の外側にはみ出す部分もあって、劣悪な騒音状況の地域的拡大を表している。

(4) 右各指定区域及び第Ⅰ工法区域と一審原告ら居住地との位置関係は、<1>昭和六〇年八月ころにおいて<略>、<2>平成六年三月ころにおいて<略>のとおりである(ただし、一審原告13水上京子、同15中川幸子、同16小川昇、同18知久和美、同20石川恒夫、同21眞屋求、同22藤田福與、同23鴨志田強、同24渡邊とり子、同84菅野栄子、同86永友輝美について、「区域(W別)」欄の「1種(85)」をいずれも「2種(90)」に改める。)。また、右各指定区域と本訴提起時の一審原告ら居住地との位置関係は、<略>のとおりである。

(二) 不定期、不規則な運航形態の場合におけるW値算出方法

一審被告は、「厚木飛行場周辺航空機騒音自動測定結果WECPNL値(日別、週別)」なる<証拠略>、「屋外日別WECPNLランク別日数集計表」なる<証拠略>を提出しているので、これに関連して、本件飛行場のように飛行機の運航形態が不定期、不規則な場合におけるW値算出方法について、念のため判示しておくこととする。

<証拠略>によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(1) WECPNLによる評価方法の合理性は、一般的に承認されており(国際的な評価単位である。)、公害対策基本法においても環境基準を定める上での基準値として採用されているところ、生活環境整備法施行規則(昭和四九年六月二七日総理府令第四三号)一条は、防衛施設周辺における同法四ないし六条に基づく区域指定に当たっても、この方法によって基準値を算出すべき旨を定めている。同条の定める算出方法の概略は次のとおりである。

<1>算定式dB(A)+10logN-27

<2>dB(A)とは、一日の全ての音響のそれぞれ最大値をパワー平均したものをいい、Nとは、航空機の機数について、午前〇時から午前七時までの数をN1、午前七時から午後七時までの数をN2、午後七時から午後一〇時までの数をN3、午後一〇時から午後一二時までの数をN4とした場合次の式によって算出される値をいう。

N=N2+3N3+10(N1+N4)

(2) ところで、民間飛行場のように運航回数や運航態様がほぼ一定している場合には、年間(簡略式の場合は連続七日間)の平均でもって標準的な運航回数とし、これを基準にW値を算定しても不合理はないが、本件飛行場のように一日の運航回数が不規則に大きく変動する場合には、次のような経験的事実に照らしても、年間の平均をもって標準的な運航回数とすることは適当ではないと考えられる。すなわち、一日の飛行回数や運航態様が不規則に大きく変動している場合には、騒音に曝されている者にとって、うるささは一定期間の平均を基準に感じるものではなく、一日単位で数多く飛行している日のうるささによって実感していることが実態調査の結果判明した。そこで、累積飛行日数と飛行回数を座標軸とした図の上にその運航分布を曲線(累積度数曲線)で表し(変動する数の数学的処理として一般的な手法である。)その八〇パーセントレンジの上限の値(発生頻度の多い方から一〇パーセントの値)を標準的運航回数としてW値を算定すると、定期的な運航回数、運航態様の飛行場について得られたW値とうるささとの対応関係と、整合性を有することが判明した。そこで、一審被告は、前記の区域指定、工法区分線の基準となるW値をこの方法によって算定しており(そのほかに、純音補正、継続時間補正による修正を行っている。)、その算定結果は合理性を有するものということができる。

してみると、日別、週別のW値と前記コンター図の示すW値とを比較し、これを超える日(あるいは反対にこれを超えない日)の割合を検討しても、コンター図の示すW値の正当性を否定する理由にはならず、あくまで参考程度にとどまる。

6  一審被告の主張に対する判断

(一) 一審被告は、本件飛行場周辺の騒音は空母ミッドウェーの横須賀入港中であるか否か、NLPが実施されるかどうかによって左右される旨主張する。確かにそのような傾向が認められるが、このことは、本件飛行場周辺地域において平穏な日が多いことを意味するものでは決してない。前記のとおり、空母ミッドウェーの横須賀入港日数は、平均にすると一年の約四割から五割、最も少ない年でも約三分の一、最も多い年は約四分の三に相当する期間に上っている。また、本件飛行場周辺の騒音発生状況は、NLP実施による騒音を除いても騒音測定回数、最高音のいずれをとってみても相当激甚なものであることは前述したとおりであり、そして、このように運航回数等に変動のある場合の合理的騒音評価方法として、前記5(二)(2)のWECPNL評価が採用されていることも前述したとおりである。

(二) 一審被告は、前記WECPNL評価は、騒音被害対策を講じるに際し一定の区域を画する有用な尺度であるが、行政目的以外の意味を持たせるには格別の吟味が必要であるとも主張する。しかしながら、WECPNL評価は、騒音評価方法として一般的に承認され、環境基準の指針値ともなり、また国際的評価単位でもあることは前記のとおりであるから、行政目的に限られず、一般的に、騒音状況を評価・判定して物事の判断の基礎とすべき場合において、客観的な指標となり、有用な尺度となるものと考えられる。

(三) さらに、一審被告は、騒音被害については、原因となる騒音の、(1)発生回数、(2)発生頻度、(3)発生時間(夜間か否か、休日か否か等)、(4)騒音の質(ジェット機によるものかプロペラ機によるものか。NLPによるものか否か等)、(5)特に高いデシベル数値の持続時間・回数などを検討すべきである旨主張する。右のうち、(1)ないし(3)については、いくつかの測定地点における騒音測定データに基づく分析結果について既述した。(4)について、NLP実施期間中の騒音測定回数を、野沢宅に例をとって説示した。航空機騒音の機種別の割合に関連して、昭和五五年一月ころの本件飛行場におけるジェット機とプロペラ機の使用割合は、ジェット機が全体の約一二パーセントであることが、<証拠略>によって認められる。また、NLPの際の航空機騒音が空母艦載ジェット機によるものであることは言うまでもなく、そのほか、空母艦載ジェット機とプロペラ機の音量を比較すると、空母艦載ジェット機の最高音が八五から一二〇ホン前後にまで達するのに対し、プロペラ機の最高音が七〇から一〇〇ホン前後であることは前述したとおりであるから、これによってある程度識別が可能である。ところで、前記のとおり、5(二)(2)のWECPNL評価の際には、純音補正、継続時間補正が行われ、(4)、(5)の事情を考慮して必要な修正がなされるものと考えられるから、これ以上詳細に検討すべき意味はなく、そもそも年間の総騒音測定回数が四万回にも上ることのある本件飛行場周辺の航空機騒音について、個々的にジェット機による騒音かプロペラ機による騒音かを識別することは煩雑であって実際的ではなく、一審原告らに立証させるには及ばないものである。

二  振動・排気ガス

原判決理由中の該当判示部分(原判決C一一六頁一二行目から同一二三頁一行目まで)の記載のとおりであるから、これを引用する。

三  墜落・落下物の危険

原審口頭弁論終結日後に神奈川県内で発生した厚木基地関連航空機事故(墜落、不時着、落下物等)について、次のとおり付加するほかは、原判決理由中の該当判示部分(原判決C一二三頁三行目から同一三〇頁一〇行目まで)の記載のとおりであるから、これを引用する。

「<証拠略>によれば、原審口頭弁論終結日後神奈川県内において発生した厚木基地関連の航空機事故は、一審原告らの控訴審主張表13の番号183ないし190、192ないし198、201、202、204ないし208、210ないし213、215、219ないし225、227ないし229のとおりであること(ただし、番号186の記載中「エンジンカバー落下」を「左車輪格納用カバー落下」に訂正する。)が、認められる。」

第四被害

一  はじめに

一審原告らは、本件損害賠償請求の根拠として環境権及び人格権の侵害を主張するところ、その具体的な内容としては、さまざまな健康被害(身体に対する被害)、睡眠妨害、生活妨害、情緒的被害等をいうのであり、ただ、このような各種被害が個別的に発生するのではなく、相互に関連し合うものであるから、これらを総合して一個の人格的な利益の侵害として把えるべきであるとし、また、本件のように同一の侵害行為が広汎な地域に及ぶ場合には、これに曝される地域の住民には、各個人の事情によって程度の差はあるにせよ、同様の被害が生ずるものであるとして、それら一審原告ら全員に共通する最小限度の損害について、その賠償を求めるものと解される。およそ、人は、健康被害についてはもとより、その余の右各被害に係る侵害行為に対しても、法的に保護されるべき利益を有することは疑いがなく、その時々の社会的、経済的な条件のもとにおいて、これら利益に対する侵害が受忍すべき限度を超える場合に、救済が認められるべきである。したがって、本件侵害行為により一審原告らに右主張のような被害が発生したかどうか、それが法的救済に価するものかどうかを、右主張の趣旨に沿って検討すべきである。

概括的にいえば、一定限度以上の騒音等に曝されていることによって一般的にその発生が推認される損害、あるいは一部の者について被害発生の事実が立証されればそのまま他の者についても同様の被害が発生したものと推定できる損害を一審原告らの損害と認定し、反対に当該被害発生が各自の個別的生活条件・身体的条件等に係わる部分が多く、右のような推定が許されないものについては、本件損害賠償請求の根拠たる損害には当たらないものというべきである。ただし、そのような被害であっても、例えば第二次的な身体的被害がある程度の確率で発生することが予測され、又は一部の者について現実に被害発生の事実が認められた場合に、一審原告ら全員に共通する第一次的被害として、そのような身体的被害につながる可能性のある生理的・心理的影響を受けているものと評価し、これを斟酌するのを相当とする場合も考えられる。

認定の資料について考察すると、航空機騒音の人体に及ぼす影響について、その内容、性質が複雑、多岐、微妙であり、客観的に捕捉しがたいものがあること、未だこの点を解明する科学的方法は確立されておらず、厳密な手法、正確な資料に基づく調査研究が困難であること、問題の性質上実際に騒音等に曝されている者の感じ方、受けとめ方を抜きにして判断することができないこと等の事情があるので、主観的要素を伴うとはいっても、一審原告らの陳述書等の記載、一部の一審原告らの本人尋問の結果、地域住民に対するアンケート結果、アンケート結果を基礎にした調査研究を軽視することができず、疫学調査が重要であり、また、実験結果は、動物実験が主要なものにならざるをえない。主観的証拠についてはその信用性、正確性が、調査研究については前提条件と本件の事実関係との異同や方法の厳密性、基礎的データの正確性等が検討されるべきは当然であるが、事実認定の際の証明力の問題であって証拠そのものを排斥する理由にはならず、他方反証たる調査研究資料等にも同様の問題点のあることを指摘することができる。

二  騒音による被害の一般的特色

騒音による被害の一般的特色については、<証拠略>を、同一三五頁四行目の「聴取妨害」の前に「聴取したいと思う音がマスク(隠蔽)されるという」をそれぞれ加えるほかは、原判決理由中の該当判示部分(原判決C一三四頁九行目から同一三八頁四行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

三  健康被害(身体的被害)

1  聴覚への被害(難聴及び耳鳴り)

次のとおり付加、訂正するほか、原判決の該当判示部分(原判決C一三八頁七行目から同一六五頁一行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

(一) 原判決C一三九頁三行目の「訴える者」の次に「(一審相原告らを含む。以下の被害の項についても同じ。)」を加える。

(二) 同一三九頁一〇行目の「である。」の次に「右のほか、原審口頭弁論終結日後に難聴を訴える者三名(一審原告61、69、77)、耳鳴りを訴える者五名(同5、22、54、66、89)のいることが、<証拠略>によって認められる。」を加える。

(三) <略>

(四) 同一四二頁二行目末尾に改行して、次のとおり加える。

「また、昭和五七年に財団法人労働科学研究所が、神奈川県渉外部の依頼により、大和市、綾瀬市、藤沢市のW値八〇の地域とW値七〇以上八〇未満の地域について実施したアンケート調査(W値八〇の地域の回答者一四〇四名、W値七〇以上八〇未満の地域の回答者一三五三名。以下「本件厚木基地周辺実態調査」という。)によると、「耳が痛いとか耳なりがする。」との項目に「かなりある」と回答した者の割合は、W値八〇の地域で約一二・五パーセント、W値七〇以上八〇未満の地域で約六・五パーセントであったことが、<証拠略>によって認められる。」

(五) <略>

(六) 同頁一二行目の末尾に改行して次のとおり加える。

「(1) 後記(2)のとおり、工場などの職場環境における騒音の許容基準については、TTS仮説を基礎とした考察方法に基づき、労働者の聴力保護の観点からいくつかの提言がなされているが、航空機騒音が飛行場周辺住民の聴力に与える影響、その許容基準に関する調査研究は立ち遅れているといってよい。その中でこれに関する意見、提言として、次のようなものがある。

(ア) 一九六九年一一月二五日カナダのモントリオールで開催された国際民間航空機構(ICAO)の「空港周辺における航空機騒音特別会議」の報告書において、聴力に対する騒音障害の評価に使用されている基準は、空港周辺において騒音に曝されていても聴力に障害を与えていないことを示しているというその一方で、そのような基準は、毎日の騒音を受ける時間の長さ、聴力障害の定義等の点において主として工場騒音及び聴力データに基づくものであり、空港周辺の地域社会に対する非職業的騒音に対しては限定された関連しかないであろうこと、航空機騒音の間欠性は、一時的及び永久的な聴力損失の危険性を減少させるけれども、空港周辺で生活し、労働している集団の人々が経験している八時間以上受けるというような騒音の特徴を考慮して、現在の聴力保護基準を改善するための研究を行う必要があると指摘している。」

(七) 同頁一二行目の最終行の「(1)」を「(イ) そして、」に改める。

(八) 同一六一頁七行目から八行目にかけての「昭和四七年から昭和五三年までにわたり」を「昭和四六年から九年間にわたり」に訂正する。

(九) 同一六二頁八行目の次に改行して、次のとおり加える。

「(エ) スエーデンの国立公衆衛生研究所のラグナー・ライランダーが昭和四七年一一月に大阪で行った講演によると、同人がそれまでに読んだ文献では、空港周辺の騒音レベル(全般的にいって、戸外で一〇〇から一一〇dB(A)の範囲)で、住民の聴力に障害を来すという資料は見当たらないこと、その理由は屋内での騒音レベルは八〇ないし九〇dB(A)以下になっているものと思われること、また、経験によると、耳は騒音と騒音との間で十分休む時間があり、これにより回復していることによると考えられるとしている。

(オ) 杉山茂夫らが大阪空港周辺に七年以上居住する二〇歳から三五歳までの主婦七六名を対象に行った調査によると、難聴を訴える一一名、耳鳴りを訴える二九名を含め、一般に騒音性難聴の特徴とされるC5d1Pの上昇は認められず、低音部での聴力低下が認められた一例を除き、ほぼ正常域値であったと報告されている。しかし、周波数八〇〇〇ヘルツの音に対しては、一般正常人に比較して聴力が劣り、大差ないし有意な差があったこと、被調査者の主訴は騒音が単に聴覚のみに影響を与えるのではなく、全身的ストレスとして色々な心理的影響を与えるものとして考慮しなければならないと指摘している。

(カ) 前記人体影響調査専門委員会(委員長大島正光)が、昭和五五年度から昭和五七年度までの三年間にわたり、大阪空港、東京空港及び福岡空港の各周辺に居住する成人女性を対象に実施した航空機騒音の健康に及ぼす影響調査によると、騒音によるうるささや生活妨害の訴えはW値の上昇に対応して増加し、特にW値九〇を超えると著しく増加しており、このようないわゆる心理的影響は、航空機騒音の高暴露レベルに対応して明らかに強く認められ、それに対応した形で健康に関する自覚症状の訴えも増加しているが、臨床的検査結果に基づく客観的な健康評価によると航空機騒音の影響は認められなかったとしている。」

(一〇) 同頁一〇行目の「いずれも」の前に「航空機騒音の難聴に対する影響について否定的ないし消極的見解を採るものを含めて、」を加える。

(一一) 同一六三頁七行目の「第四」を「第三」に改め、同頁九行目から一〇行目にかけての「反復であること、」の次に、「とくに、本件飛行場におけるNLP実施時間帯には単純平均して一分ないし二分に一回の割合で七〇ホン以上の航空機騒音に曝されることもあるから、間欠騒音とはいっても、このような場合にはひっきりなしに騒音が発生しているものといってよいこと、」を加える。

(一二) 同一六四頁一〇行目の「慰謝請求権」を「慰籍料請求権」に改める。

2  聴覚以外の身体的被害

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の該当判示部分(原判決C一六五頁三行目から同二一一頁五行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

(一) 原判決C一七六頁一一行目末尾に改行して、次のとおり加える。

「(7) 右のほか、一審原告らのうちで原審口頭弁論終結後に聴覚以外の身体的不調を訴える者は、(1)頭痛、肩こり、疲労等の訴えが五名(一審原告63、67、73、75、77)、(2)高血圧、心臓の疾患等の訴えが八名(一審原告8、11、51、55、58、63、69、93)、(3)消化器系障害の訴えが三名(一審原告58、63、75)であったことが、<証拠略>によって認められる。

また、前記の本件飛行場周辺住民を対象にした本件厚木基地周辺実態調査の結果は次のとおりであったことが、<証拠略>によって認められる。

(ア) W値八〇の地域の回答者の約一七・七パーセント、W値七〇以上八〇未満の地域の回答者の約八・九パーセントがそれぞれ「頭が痛いとか重いことがある」との項目に「かなりある」と答え、W値八〇以上の地域の回答者の約五・九パーセント、W値七〇以上八〇未満の地域の回答者約二・七パーセントがそれぞれ「食欲がなくなる。」との項目に「かなりある」と答えた。

(イ) 妊婦のうち約六〇パーセント強が騒音による影響を認め、「母乳がでなくなる」とする者が四〇パーセント、「流産、早産の危険」をいう者が三〇パーセントであった。

(ウ) 航空機騒音が原因の一つになっていると思われる障害について回答させた結果によると、W値八〇の地域では、不眠症、頭痛、肩こり、胃腸等の消化器障害、血圧の上昇、耳なり、全身のだるさ、動悸、難聴、食欲不振、めまい、ノイローゼ、吐き気、その他の順であり、不眠症から耳なりまでの六症状については回答者の一割を超えた。他方W値七〇以上八〇未満の地域では、頭痛、不眠症、肩こり、耳なり、動悸、血圧の上昇、胃腸等の消化器障害、全身のだるさ、めまい、食欲不振、難聴、ノイローゼ、吐き気、その他の順であり、回答者の一割を超えたのは頭痛のみであった。

(エ) 調査時点を基準にした最近三年間で、自分や家族が航空機騒音が原因となって病気にかかったり、身体に不調を来したと思うと回答した者は、W値八〇の地域で回答者の七〇・五パーセント、W値七〇以上八〇未満の地域で回答者の四五・二パーセントであり、航空機騒音が療養生活に影響を与えていると回答した者は、W値八〇の地域では九〇パーセント弱、W値七〇以上八〇未満の地域では七〇パーセントを超えた。

(オ) いずれの項目についても、W値八〇の地域の方が被害が大きく、W値七〇以上八〇未満の地域との間に差が認められた。

(二) 同一七七頁七行目から八行目にかけての「二、三〇〇メートル」を「二〇〇ないし三〇〇メートル」に改める。

(三) <略>

(四) 同一七九頁七行目から同一八〇頁六行目までを次のとおり改める。

「(ア) 国立公衆衛生院の田多井吉之介らが健康な成人男子に対し五五、七〇、八五ホンの三段階の航空機騒音、工場騒音及び街頭交通騒音と、対照の三〇ないし四〇ホンの市街地騒音(いずれも録音再生)を、一日二時間・一〇日間暴露して行った実験によると、血圧・脈拍について三〇分に一回程度の測定では変化を見いだしえなかったものの、血中総白血球数・好酸球数・好塩基球数、尿中17―OHコルチコステロイド量については、五五ホン程度の騒音暴露によっても変化(総白血球の増加、好酸球数の減少、好塩基球数の増加)が認められ、生理機能に影響を及ぼすことが明らかになった。騒音レベルの上昇に伴い、対照実験が直線的な変化の傾向を示すのに比して、総白血球数の増加の抑制、好酸球数の減少の促進と増加の抑制、好塩基球の増加の促進と回復の抑制が認められた。八五ホンで最も強く影響が現れ、また、個人差も極めて大きかった。右の三種の騒音の中では、好酸球数の反応において航空機騒音の影響が最も強いといえるが、全体的にみるとあまり差はなかった。別の実験において、健康な男子大学生に対し前同様三段階の工場騒音及び街頭交通騒音と、対照の三五、四〇、四五ホンのホワイトノイズを、三〇分の休止をはさんで前後三〇分ずつ暴露したところ、騒音によって呼吸数の増加、脈拍数の減少が認められ、この反応は騒音レベルの上昇に伴い多少とも強まる傾向が認められた。」

(五) 同一八一頁六行目末尾に改行して、次のとおり加える。

「(ウ) 陳秋蓉ほか三名が、青年男子二名に対し、六〇dB(A)の騒音を一回に三〇秒間、三〇分おきに一五回聴取させ、次に一〇〇dB(A)まで一〇dB(A)づつ音圧を高めていって同様の実験をし、さらに日を変えて今度は逆に一〇〇dB(A)から六〇dB(A)まで順次音圧を下げて同様の実験をし、血圧の変動を最高血圧自動連続測定装置によって測定したところ、暴露音の音圧レベルが大きくなるとともに誘発血圧が大きくなり、両者の関係は直線で近似しうること、持続時間にかかわらず、騒音暴露開始後約一〇秒で誘発血圧が最大になったことが報告されている。」

(六) 同頁七行目の「(ウ)」を「(エ)」に、同一八二頁一二行目の「(エ)」を「(オ)」にそれぞれ改める。

(七) 同一九二頁一行目の「三週」を「三〇週」に改める。

(八) 同二〇七頁九行目末尾に改行して、次のとおり加える。

「(6) そのほかの文献及び調査研究

(ア) 前記EPA資料は、大抵の専門家は現在騒音の健康(病気でないことという、限定した意味に定義して)に及ぼす影響について、騒音による聴覚損失に関する以外は不十分な知識しかないことを認めているとした上、その一方で、ストレスに関連して多くの心身の不調が発生する期間は騒音によって聴力損失が発生する期間よりもやや長いので、その長さのため因果関係がはっきりしないのかもしれないと論じ、また、騒音が心臓血管系に種々の影響を及ぼすことがあること、普通の騒音でも毛細血管の収縮や瞳孔拡大を起こすこと、騒音暴露がそれだけでもまた他のストレス源と結びついて一般的ストレスを起こすと推定できるとしている。

(イ) EPAの一九七三年七月二七日付「騒音に関する公衆衛生と福祉に関する基準」は、騒音暴露が単独であるいは他のストレス作用因子とあいまって一般的ストレスを発生させることを指摘するが、他方、騒音暴露とストレスとの関係も、ストレスの発生が想定される閾値の騒音レベルあるいはその期間についても解明されていないとし、また、中等度の強さの騒音暴露が種々のかたちで心臓血管システムに作用することを指摘するものの、循環器システムに及ぼすはっきりした永久的作用は実証されていないとしている。

(ウ) クライターの論文「騒音が聴覚以外に及ぼす影響」によれば、一応の結論として、自律神経によって媒介される騒音に対する無条件ストレス反応は、人に対して障害を及ぼす危険はなさそうであるとしながらも、騒音は会話や睡眠を直接妨げ、やかましさや怒りの感情を引き起こし、さらにその感情は自律神経の反応を活発化させて、ある人に対しては生理的にストレスを与える可能性があり、反復すると不健康の原因となったり、不健康を助長させるとし、そこで、はっきりしたやかましさをなくし、通話及び睡眠妨害をなくすために騒音に対し一般的に設定される限界は、騒音の持続時間にもよるが、聴き手の位置で三五ないし七五dB(A)の範囲であるとしている。

(エ) そのほかに、前記ICAO会議報告書、ライランダー、岡田淳の所見等は、航空機騒音が肉体的、精神的に深刻な影響を及ぼすことを示す明確な証拠はないとしている。」

(九) 同二〇七頁一〇行目から同二一一頁五行目までを次のとおり改める。

「(三) 以上の調査研究等を総合的に検討すれば、騒音が自律神経系、内分泌系の作用を介して生理的機能に影響を及ぼし、脈拍増加、血圧上昇、末梢血管収縮、呼吸数低下、血球数の増加又は減少、唾液及び胃液の分泌量の低下、胃腸活動の低下、副腎皮質ホルモン等の変調、胎盤機能の低下等を招来し、騒音が単独であるいは他のストレス作用因子とあいまって多量又は長期間にわたり作用するときは、一過性反応の域を超える様々な身体的障害(頭痛、胃腸障害、循環器系障害等)を発現させることの生理的機序が解明され、その実証がなされたものということができる。しかし他方、聴覚経路で生じる障害とは違って、自律神経系、内分泌系の作用を介する間接的影響であって、他のストレス作用因子によっても同様の反応、身体的障害が発生するところの非特異的影響であるから、騒音による影響かどうかを判断するためには、その前提として個々の症例について他のストレス作用因子の存否等を確定する必要がある。また、騒音暴露がどの程度の量に至れば、人間の生理的機能に対し永久的な影響を及ぼすものかといった定量的関係を示す実験結果、科学的データは未だ存在しないこと(前記(二)(6)の見解はこの点を強調するものと考えられる。)のほか、一般的知見として、ストレスに耐えうる程度については個人差が大きく、身体的障害の発現に至るかどうかはその人の年齢、性別、その時々の健康状態等の諸条件によって左右されるといわれているところ、一審原告らに関して右の点の事情は、本件全証拠によっても十分に明らかにされたとはいえないから、一審原告ら訴えにかかる身体的被害が、本件飛行場の航空機騒音等によるものと断定することはできないのみならず、一審原告らに共通する被害として、そのような身体的被害を被る具体的危険性があるものと断定することも未だ十分ではないというべきである。しかしながら、前記認定の本件飛行場における騒音状況は、右の調査研究等において有害な影響あるいは生理的な反応が認められたとされる騒音の水準を超えるものであるから、一審原告らの訴える身体的被害のうち本件飛行場の航空機騒音に起因するもののあることも一概に否定することはできないものというべきであり、また、身体的障害の発現には至らないとしても、これに結びつく可能性のある有害な身体的、精神的負荷を被り、悪影響を受けていることは、一審原告らに共通して認められるから、右の点は、違法性の判断、あるいは慰籍料額の算定にあたり、一つの事情として考慮するのが相当である。」

四  睡眠妨害

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由中の該当判示部分(原判決C二一一頁七行目から同二二四頁六行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

原判決C二一二頁二行目の「及んでいる。」の次に「右のほか、原審口頭弁論終結後に睡眠妨害を訴えている者六名(一審原告5、26、30、51、54、58)のいることが、<証拠略>によって認められる。」を加え、同二二三頁五行目の「第四」を「第三」に改める。

五  生活妨害

次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決理由中の該当判示部分(原判決C二二四頁八行目から同二七八頁七行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  <略>

2  同二二六頁四行目「及んでいる。」の次に「右のほか、三名(一審原告51、58、67)が、原審口頭弁論終結後に会話・電話聴取妨害を訴えている。」を加える。

3  同二二七頁三行目末尾に、「そして、本件厚木基地周辺実態調査によれば、W値八〇の地域では回答者のほぼ全員が会話・電話妨害がかなりあると回答し、W値七〇以上八〇未満の地域でも、相当多数の回答者がこの被害の大きいことを訴えている。」を加える。

4  同二三一頁最終行の末尾に改行して次のとおり加える。

「(7) 米国フロリダ州ペンサコラ市所在の海軍航空宇宙医学研究所研究員らの調査研究によると、快適受聴レベルで提供の音声について、文章了解度は七六dB(A)で急減したと報告されている。」

5  同二三二頁一一行目の「認められる」の次に「(右(二)(7)の調査研究は右認定を左右しない。)」を加える。

6  同二三三頁八行目から二三四頁九行目までを次のとおり改める。

「ところで、屋内における騒音は、建物自体の遮音効果(開口部を閉め切った状態で)により屋外に比べて約二〇dB(A)減弱し、防音工事が施工されるとさらに一〇dB(A)程度減弱するものと考えられることは後記のとおりである。しかしながら、侵害行為の項で述べたとおり、本件飛行場周辺の騒音状況を、例えば昭和五六年以降の吉見宅や林間小学校についてみても、八〇dB(A)以上の騒音の占める割合が七、八割、九〇dB(A)以上の騒音の占める割合が二、三割に上るから、このような騒音状況に照らせば、防音工事の施工されていない建物内ではもとよりのこと、防音工事の施工された室内においても、会話、電話の際の音声が飛行騒音により聴取困難になり、直接妨害を受ける頻度も少なくないものというべきである。その上、通常の生活形態においては、屋外で会話する機会も当然あり、また、暑さ寒さの厳しい時期以外は窓を開けて生活するのが自然であるというべきで、まして、防音工事が一戸の家の一部にとどまる場合、開口部を閉め切った防音室内で一日中生活することは不可能である。さらには、音声を聴取すること自体はなんとかできても、そのために神経を集中しなければならず、一方話し手においては大声を出さなければならないような態様の会話等の妨害もあるものというべきである。してみると、後記「騒音対策」の項で述べる、周辺対策の一環として一審被告が行っている住宅、学校等の防音工事助成、騒音用電話機の設置等の施策は、その開始時期、進捗状況の問題をひとまず措き、方策の内容からいっても、被害の一部を軽減するにとどまるものであり、被害そのものを解消するには到底及ばないものというべきである(なお、防音工事による被害軽減効果については、「騒音対策」の項で付加して述べる。)。」

7  同二三五頁五行目の「であり、」の次に、「そのほか、一名(一審原告58)が原審口頭弁論終結後にテレビ・ラジオの視聴妨害を訴えており、」を加える。

8  同二三六頁二行目末尾の次に、「本件厚木基地周辺実態調査によると、W値八〇の地域では回答者のほぼ全員がテレビ・ラジオの視聴妨害がかなりあると回答し、W値七〇以上八〇未満の地域でも、相当多数の回答者がこの被害の大きいことを訴えている。」を加える。

9  同二四三頁二行目の「であり、」の次に「原審口頭弁論終結後、右のほか二名(一審原告51、65)が交通事故の危険を訴えている。」を加える。

10  同二五八頁二行目末尾に改行して次のとおり加える。

「(5) 神戸大学教育学部養護教育研究室横尾能範らが、また神戸市環境局瀬林伝らが、それぞれ行った実験結果によると、慢性的な鉄軌道騒音暴露下にある児童について、聞き慣れた鉄軌道騒音によってかえって精神作業の円滑な遂行が阻害され、無意識のうちに精神作業に対する集中力、意欲等が一時的に低下するような条件反応形成の可能性が考えられるとしている。」

11  同二六三頁七行目の末尾に、「また、大和市内に診療所を開設して医療行為に従事している医師は、飛行騒音のため聴診、問診等に支障が生じている旨具体的に被害を述べている。」を加える。

12  同二六三頁一一行目の「通話妨害は、」の次に、「医師にとっては診療行為の妨害になり、」を加える。

13  同二六六頁一〇行目の「に及ぶが、」の前に、「、原審口頭弁論終結後にこの被害を訴える者三名(一審原告26、42、43)」を加える。

14  同二六七頁七行目から八行目にかけての「第四(侵害行為)二1認定のとおり、」及び同二六八頁一一行目の「第四(侵害行為)二2認定のとおり、」を、いずれも「第三(侵害行為)二のとおり、」に改める。

15  同二七七頁一二行目から一三行目にかけての「健康被害や」を削除する。

16  同二七六頁四行目の「第四」を「第三」に改める。

17  同二七八頁三行目の「できる。」の次に改行して、次のとおり加える。

「そして、昭和五七年二月から開始された空母ミッドウェー、インディペンデンス艦載機によるNLPは、本件飛行場周辺の騒音状況を一段と悪化させ、家族の団らん、休養、睡眠等にあてられるべき時間帯に長時間にわたり、間断なく高レベルの音量の飛行騒音を発生させるものであるから、これにより周辺住民に与えるいらだち、不快感、墜落事故等の不安感は甚大であり、一審原告らの情緒的被害が一層大きくなっていることは、(一)<証拠略>によって認められる、大和市に対する市民からの苦情件数及びその内容、(四)<証拠略>によって認められる、関係自治体の首長等から政府関係機関、米軍に対する多数回にわたる要請書の提出等によって明らかである。」

第五騒音対策

一  周辺対策

周辺対策については、後記1のとおり原判決に付加、訂正し、後記2のとおり原審口頭弁論終結日後の事情を付加するほかは、原判決の該当判示部分(原判決C二八六頁七行目から同三五一頁一行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の付加、訂正

(一) 原判決C三〇五頁二行目の「考えられ、」から同三〇八頁二行目までを次のとおり改める。

「考えられる。しかしながら、原審昭和五四年八月一五日付、昭和五五年二月二〇日付、昭和五五年一二月二二日付各検証の結果によれば、防音工事を施工しない場合でも、屋内と屋外とでは一七ないし二〇dB(A)程度の騒音量の差のあることが認められ、原審昭和五四年八月一五日付検証の際の月生田宅非防音室においては、窓を開けた状態でも屋外の八六・五ないし八七dB(A)の騒音に対し七二・五dB(A)の測定値が得られ、一四dB(A)程度の差があったことが認められるから、防音室内と屋外との騒音量の差を全て防音工事の効果と見ることはできないのであって、原審及び差戻前控訴審における各検証の結果等を総合すると、右の防音効果はおおよそ一〇dB(A)前後のものとみるのが妥当なところである(一審被告も、今日の個人住宅の遮音程度は二〇dB(A)程度は見込まれ、これに防音工事が施されている場合には二五から三〇dB(A)に達すると主張している。)。ところで、住宅防音工事は当然のことながら屋外の騒音を何ら軽減させるものではない。そして、防音室の開口部を全て閉め切っておかなければ所期の効果を発揮することができないから、騒音が軽減される代わりに自然から遮断された生活空間におかれる不快感を我慢しなければならない。気候条件の点からいっても、夏季の冷房機を使う期間や冬季を除けば、窓を開けて生活するのが自然であるし、夏季に冷房機を使用して長時間閉め切った防音室にいることは、費用負担だけでなく健康上の問題も生じてこよう。また、通常の生活形態では一日中防音室で生活できるものでもない。そうしてみると、住宅防音工事の結果騒音被害が軽減されるとはいっても、部分的なものにとどまり、全面的な被害の救済からは程遠いものといわなければならない。したがって、住宅防音工事助成の実績は受忍限度あるいは慰藉料額の算定に当たって考慮すべき事情ではあるが、あまりにこれを重要視することも相当ではない。また、後記のとおり一審原告らのうちには現在六室の防音工事を完了した者もいる一方、未だ助成の申請をせず、防音工事をしていない者も存するところ、前記の防音工事自体の防音効果の程度等に徴すれば、防音効果に対する疑問や建物が老朽化している等の事情により右の助成申請をしないことをもって、静穏な環境確保の利益を放棄するものとして非難することも相当ではないというべきである。」

(二) 同三三一頁七行目の「いい難い。」の次に、「(<証拠略>によると、むしろ視覚による心理的効果の方が大きいという。)」を加える。

(三) 同三三八頁四行目の「刈谷悦子」を「刈屋悦子」に改める。

2  原審口頭弁論終結日後の周辺対策

(一) 原審口頭弁論終結日後昭和五九年度まで(昭和六〇年三月末まで)

<証拠略>によれば、次の事実が認められる。

(1) 住宅防音工事の助成について

昭和五六年一二月二一日の総理府令改正により生活環境整備法四条の第一種区域のW値が七五以上になったことに伴う、昭和五九年五月三一日告示の追加指定によって、対象世帯数は約四倍になった。そのうちW値八〇以上の区域を対象とする第一工法の計画遮音量は二五dB(A)以上、W値七五以上八〇未満の区域を対象とする第二工法の計画遮音量は二〇dB(A)以上とされ、それぞれの基準・仕様に基づいて施工される。昭和五六年一月から昭和六〇年三月までの実績は、対象戸数二万二九一五戸、金額四二三億〇七四〇万九〇〇〇円である。

また、一審原告らのうち昭和六〇年三月末までに右の助成を受けて防音工事を完了した者(一審原告らの近親者が助成の申請名義人であって、一審原告らがその防音工事による利益を受けている場合を含む。以下同じ)は、<略>のとおりである。

(2) その他について

昭和五六年一月から昭和六〇年三月までの住宅防音工事の助成を含めた周辺対策事業の実績は、<略>のとおりであり、大和市に対する基地交付金七億二九二四万六〇〇〇円のほか、総額五六七億〇四七六万四〇〇〇円である。住宅防音工事の助成を除くその余の内訳をみると、<1>学校等の防音工事助成が三八億〇六七一万三〇〇〇円、<2>民生安定施設の防音工事助成が一三億一五八五万四〇〇〇円、<3>移転措置が七億一二八一万六〇〇〇円、<4>緑地整備対策が一億四六〇八万円、<5>騒音用電話機の設置が一〇〇八万九〇〇〇円、<6>放送受信障害対策が一七億五二九二万一〇〇〇円等である。

(3) 各項目毎の明細は<略>のとおりである(ただし、昭和五五年からのものがある。)。

(二) 昭和六〇年四月一日から平成六年三月末まで

<証拠略>によれば、次の事実が認められる。

(1) 住宅防音工事の助成について

一審被告は、生活環境整備法四条に基づく第一種区域を見直して、昭和六一年九月一〇日追加指定を行った。これにより、海老名市国分寺台一丁目ないし五丁目、座間市相模が丘二丁目、綾瀬市綾西三丁目ないし五丁目、藤沢市用田、相模原市相南一丁目等が新たに第一種区域に含まれることになった(対象数約一三万三八一〇世帯)。平成五年度末までにいわゆる新規工事(一世帯一室を原則とし、五人以上の世帯では二室)については、一一万〇一〇二世帯の住宅について防音工事が完了した。また、いわゆる追加工事(新規工事完了を前提にして、最大五室まで)として、二万六四四二世帯の住宅について防音工事が完了している。

また、一審被告は、平成元年度から、一審被告の助成にかかる住宅防音工事により設置した空気調和機器が一〇年以上経過し、取替工事の必要を生じたものについて、その費用を生活環境整備法四条に基づき助成することとしたほか、生活保護法による扶助を受けている者に対し、空気調和機器稼働費の助成を行っている。各助成の実績をみると、住宅防音工事(新規・追加工事分)が二二五七億七三一五万四〇〇〇円、住宅防音工事(空調機器復旧工事分)が一億六九七三万九〇〇〇円、住宅防音工事(空調機器稼働助成事業分)が四八一万二〇〇〇円である。

本件飛行場周辺における住宅防音工事助成は昭和五〇年から開始されたが、これまでの実施状況の推移を概観すると、次のとおりである。まず、助成の対象数は、昭和五四年九月五日付第一種区域の指定により約四五〇〇世帯、昭和五六年一〇月三一日付同区域指定(基準値がW値八五からW値八〇に改正)により約二万七七〇〇世帯、昭和五九年五月三一日付同区域指定(基準値がW値八〇からW値七五に改正)により約一一万七八二〇世帯となり、その後昭和六一年九月一〇日付追加指定により前記のとおり約一三万三八一〇世帯になった。このうち、防音工事を完了して補助金の交付を受けた者は、昭和五九年度末までで二万七七九四世帯、進捗率約二一パーセントであったが、平成元年度末までに七万五四七三世帯(進捗率約五六パーセント)が、その後平成五年度末までに前記のとおり約一一万〇一〇二世帯(進捗率約八二パーセント)が防音工事を完了して補助金の交付を受けている。

また、平成六年三月末現在における一審原告らに対する防音工事助成及びその他の周辺対策の実績は、<略>のとおりである。

(2) その他について

昭和六〇年四月一日から平成六年三月末までの住宅防音工事の助成を含めた周辺対策事業の実績は<略>のとおりであり、関係市に対する基地交付金等一二六億六二八九万八〇〇〇円のほか、総額二六七九億一四一八万三〇〇〇円である。住宅防音工事の助成を除くその余の内訳をみると、<1>学校等の防音工事助成が一六四億四五二八万六〇〇〇円、<2>民生安定施設の防音工事助成が三六億六六七六万円、<3>移転措置が二二億六二九七万九〇〇〇円、<4>緑地整備対策が三億六九三四万六〇〇〇円、<5>放送受信障害対策が四二億五五六三万九〇〇〇円等である。

(3) 各項目毎の明細は<略>のとおりである。

二  音源対策等

原判決C三五九頁一一行目の「曲枝飛行」を「曲技飛行」に改めるほかは、原判決の該当判示部分(原判決C三五一頁三行目から同三七五頁一〇行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

三  まとめ

以上の一審被告による騒音対策について要約すると、次のとおりである。

1  音源対策等

直接の音源対策は、地上騒音について限定された範囲でその効果が考えられるにすぎず、飛行騒音については対策が講じられていない。運航対策をみると、飛行時間、飛行方法等に関する各種規制は自主規制である上に例外規定も多く、騒音防止の効果には限界がある。確かに、「第三 侵害行為」の項で説示したとおり、休日や深夜早朝の一日当たり平均飛行回数を平日と比較すれば相当程度減少していることは認められるものの、それも日によっては相当激甚な騒音状況を呈することがあって軽視しがたいものである上、平日に至っては、騒音測定回数、最高音とも相当激甚な騒音状況が続いているのであるから、十分な騒音防止の効果があがっていないことの何よりの証左といわなければならない。

2  周辺対策

一審原告らに対する関係において騒音被害の軽減又は防止に最も効果的と考えられる住宅防音工事の助成は、昭和五〇年に至ってようやく開始された対策であって昭和五九年度末までの進捗率は低かったが、平成元年度末までには進捗率五〇パーセントを超え、平成五年度末までには約八二パーセントの進捗率であるから、相当広く行き渡ったものと考えられる。いわゆる追加工事(新規工事完了を前提にして、最大五室まで)も平成五年度末までには二万六四四二世帯について実施された。しかしながら、この対策も他の周辺対策と同様に効果的な音源対策が講じられないための次善の策というべきであり、被害を完全に解消させるには程遠く、被害の一部を軽減するものにすぎない。その他の周辺対策については、騒音被害の防止、軽減の効果自体が明らかでないもの、あるいは一審原告らの騒音被害を直接軽減又は防止するものではないというべきである。

3  そうしてみると、一審被告の騒音対策は、一審原告らとの関係において、防音工事助成を除き、みるべき効果をあげていないものというほかない。防音工事助成については、被害の一部について軽減の効果が認められるから、慰藉料額の算定にあたって考慮するのが相当である。

第六違法性について

一  一審原告ら主張の責任原因

そこで、一審原告らの本件被害が法的救済に価するものかどうかについて検討する。

一審原告らは、本件損害賠償請求の根拠として主位的に国賠法二条一項の営造物の設置及び管理の瑕疵責任を、予備的に民法七〇九条の不法行為責任を主張する。国賠法二条一項の営造物の設置及び管理の瑕疵には、営造物の供用目的に沿った利用の態様、程度が一定の限度を超えたため、安全性を欠くに至った場合も含まれ、本来の供用目的に従って利用される場合でも、利用の態様・程度が適切を欠き、これによって第三者の被った利益侵害が社会的に是認できない場合、すなわち違法に第三者の利益を侵害するような場合にも、右の瑕疵があるものというべきである。そこで、本件における違法性について検討を加えることとする。

二  違法性の判断基準と受忍限度

前記のとおり、本件飛行場の使用及び供用が、一審原告らとの関係で違法な権利侵害ないし法益侵害になるかどうかは、(一)侵害行為の態様と侵害の程度、(二)被侵害利益の性質と内容、(三)侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情等を総合的に検討して判断すべきである。

そして、本件被害の性質・内容をみると、本件被害は具体的な身体的被害ではなく、精神的・情緒的被害、生活上の利益侵害であるが、その程度は軽視しがたいものであり、かつ多数の周辺住民に及んでいることは、「第四被害」の項において記述したところから明らかである。他方、本件侵害行為の態様についてみると、本件侵害行為は、本件飛行場の使用及び供用によって発生する航空機騒音の周辺住民に対する有害な作用・影響が主要な部分を占めるところ、人々が社会生活を営む上で自ら騒音を発生させ、あるいは他からの騒音に曝されることは避けられない上、高速交通機関等の提供する利便を享受し、各種産業のもたらす諸財の供給を受けるためにも、その代償としてこれら社会的活動が発生させる騒音を相当程度甘受しなければならないことはみやすい道理であるから、騒音を発生させること自体がただちに違法と評価されるものではもとよりなく、当該騒音が一般に社会生活を送る上で当然受忍すべき限度を超える被害を招来する場合に違法性が問題になり、その原因たる行為が社会的有益性、公共性を有する場合には、この点を斟酌した上で、なおかつ被害が受忍限度を超えると判断される場合に違法と評価されるべきである。

そこで、右の観点から、本件被害が受忍限度を超えるものかどうかについて、検討する。

三  本件飛行場の公共性

次のとおり付加、削除するほか、原判決C二八二頁九行目から同二八五頁九行目までを引用する。

1  原判決C二八三頁三行目の「本件飛行場」から六行目の「全体としてみれば、」までを削除する。

2  同頁一〇行目末尾に次のとおり加える。

「そして、その重要性は、東西の冷戦構造が終焉したといわれる現在の国際情勢においても変わりがない。

しかしながら、他の行政諸部門の役割も社会にとって極めて重要であるほか、民間空港等の高速交通機関・施設等も国民生活に大きな貢献をしており、高度の公共性を有するものというべきであるから、国防の持つ重要性についてだけ特別高度の公共性を認めることは相当ではないと考えられる。」

3  同頁一一行目の「しかしながら、」から最終行の「これらは」までを、「また、我が国の平和と安全及び極東の平和と安全の維持は」に改める。

4  同二八五頁九行目の末尾に改行して、次のとおり加える。

「 公共性に関する以上の事情にかんがみれば、本件飛行場の使用及び供用自体は法令の根拠に基づくものであり、かつ公益性、政治的・外交的重要性があるからといって、周辺住民にどのような被害を与えてもよいというものではなく、このような場合の受忍限度は、他の公共用飛行場をも参考にして検討されるべきである。

ところで、本件被害は精神的・情緒的損害及び生活妨害であって、被害の程度を数量的に把握する方法で受忍限度を判断することができないから、他の方法すなわち一審原告ら各自がどの程度の騒音に暴露されているかを基準にして判断するのが相当である。そして、前記の騒音被害に関する一般的知見及び経験則の上からも、一定の騒音は原則としてこれに相応する一定の被害を与えるものと推定してよいから、このような判断方法も合理性が承認されるべきである。

そこで、右の判断方法をとる場合、後述するとおり民間の公共用飛行場のみならず自衛隊等が使用する飛行場についてもその適用の対象となる「航空機騒音に係る環境基準」(昭和四八年一二月二七日環境庁告示第一五四号。したがって、自衛隊の果たす国防上の重要性、公益性についても考慮した上で設定された基準というべきである。)等が重要なてがかりを提供するものと考えられる。」

四  騒音に係る環境基準等

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由中の該当判示部分(原判決C三七五頁一二行目から同三八四頁一〇行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  <略>

2  同三七七頁五行目から六行目にかけての「私法上の受忍限度の基準と同様の考慮によって」を「私法上の受忍限度を判断する場合と同様の思考過程を経て(「航空機騒音に係る環境基準」の基準値については、騒音のうるささをNNI、WECPNL等の評価方法に基づいて数値化した上、被害との相関関係を検討して設定された。)」に改める。

3  同三八三頁一一行目の末尾に改行して次のとおり加える。

「 もっとも、一審被告は、本件飛行場は環境基準の飛行場区分第一種空港相当とされ、改善目標値が屋内においてW値六〇以下とされている(環境基準第2の1)ところ、屋外の騒音は防音工事の効果により二五ないし三一dB(A)軽減され、WECPNLによる評価を採った場合でもほぼ同程度とみてよいから、本件飛行場周辺の移転措置による対策が講じられている区域(W値九〇以上の区域)以外は、防音工事施工室において右環境基準の改善目標値に近い環境が得られるものということができ、改善目標値を上回る効果がみられるケースも少なくない旨主張する。しかしながら、前記のとおりW値九〇未満の地域(例えば、吉見宅、尾崎宅、林間小学校所在地がこれに該当する。)でも、騒音レベルが九〇dB(A)を超えることも決して少なくなく(前記のとおり、昭和五六年以降ほとんどの年で総騒音測定回数の二、三割を占める。)、最高音は一一〇から一二〇dB(A)にも達するのであるから、一審被告の右の主張は立論の前提を欠く。また、環境基準で定める屋内値は、最終的な屋外値の達成に長期間を要する場合の中間的な改善目標の一つであり、かつ中間的改善目標にはほかに屋外値も定められていることに照らすと、中間的改善目標の屋外値が目標に達しない場合の次善の目標と解すべきである上、開口部を閉め切った建物及び防音室内で生活することが不自然(場合によっては不健康でもある。)であることは前記のとおりであるから、受忍限度を判断するに当たって、屋内値を重視するのは相当ではない。」

五  まとめ

以上一ないし四の判示事実、前記「第四 被害」の項で記載した騒音の程度と被害との相関関係等を総合考慮すると、原則としてW値八〇以上の騒音による被害は受忍限度を超えるものというべきであり、反対にW値八〇未満の騒音による被害については未だ受忍限度内にあるものというべきである。

してみると、一審被告による本件飛行場の使用及び供用行為は、原則として、W値八〇以上の地域内に居住する一審原告らとの関係において、違法にその法益を侵害するものというべきところ、一審被告の騒音対策については、前記のとおり住宅防音工事助成以外にみるべき効果がなく、また、住宅防音工事助成についても部分的に被害を軽減するにとどまるものであるから、右の違法性の判断を左右するに足りない。

ところで、一審被告は、本件飛行場はもともと人家の存しない山林ないし農村地域を買収して昭和一六年に設置されたものであり、これにより、本件飛行場周辺地域は、軍用飛行場を包含し、その維持、運用のために利用されるという地域としての特殊性が形成され、そのような地域として社会的認識、承認を得たから、その後に本件飛行場周辺地域内に居住を開始した一審原告らについては、いわゆる地域性、先(後)住性、危険への接近の理論を適用して、一審被告の損害賠償責任を否定するか、少なくとも損害賠償額を算定する上でこれを考慮すべきである旨主張するので、以下検討する。

第七地域性、先(後)住性、危険への接近について

一  地域性、先(後)住性について

原判決C三八六頁七行目から同三九三頁六行目までを引用する。ただし、次のとおり付加、訂正する。

1  同三八六頁七行目の「(一)」を「1」に改め、<略>をそれぞれ加える。

2  同三八七頁一〇行目の「みられるのである。」を、「みられるのであり、平成四年には人口二〇万人を超えた。」に改める。

3  同三八九頁一〇行目末尾に「他方厚木基地の存在が大和市等地元の発展に格別寄与した事実はない。」を加え、同一一行目の「(二)」を「2」に改める。

4  同三九二頁一〇行目の「右に認定した各事実」から同一一行目の「まず、」までを「右各認定事実に照らして判断すると、」に改める。

5  同三九三頁六行目末尾に次のとおり加える。

「もっとも、一審被告は、当審において、厚木基地の米軍ジェット機による航空機騒音が周辺住民に甚大な影響を与えていること、周辺住民の集団移転が計画されていること等を報じた昭和三五年七月ないし一〇月頃の新聞(成立に争いのない乙第二五六号証の一ないし一九)を提出するけれども、右書証によっても周辺住民や自治体が航空機騒音等の侵害行為を容認したことを窺知することはできず、かえって、これに抗議して飛行禁止等を求め、一審被告にその対策を要請しているのであるから、右の社会的承認の事実を証するものでは全くない。また、その後昭和四〇年ころから昭和四八年ころにかけて比較的航空機騒音の少ない時期があったことは前記のとおりである。」

二  危険への接近について

右認定事実、とりわけ本件飛行場の所在地がその名称から周辺自治体の住民にとってさえも必ずしも周知の事実とは言いがたいこと及び前記のとおり本件飛行場における航空機の運航回数、運航態様には変動性が認められること等に照らして、<証拠略>を検討すると、一審原告らのうち、たまたま航空機の飛行が比較的少ない日曜、祭日等に下見に来たため、実際に本件飛行場周辺地域に転居するまで、本件飛行場の存在やその航空機騒音の程度を知らなかった者のいるであろうことは推認するに難くなく、少なくとも一審原告ら全員について、本件侵害行為及びこれに基づく被害を積極的に容認するような動機はなかったものというべきであるから、危険への接近の理論を適用して一審被告の損害賠償責任自体を否定することはできないものというべきである。他方、前記のとおり、昭和四八年一〇月以降の空母ミッドウェーの横須賀港母港化及び海上自衛隊の移駐等に対して、政党、住民団体等による反対抗議運動等が行われ、新聞、テレビ、雑誌等でも大きく報道されて、そのころ航空機騒音が重要な公害問題、社会問題として広く国民の注目を集めるようになっていたことも事実であるから、少なくとも昭和四九年以降本件飛行場周辺地域に転入した一審原告らについて、本件侵害行為やこれに基づく被害を認識していた者もいたであろうことは否定しがたく、そうでない者についても、認識していなかったことについて過失があるものというべきである。しかしながら、昭和五七年二月以降実施されるようになったNLPによる航空機騒音の及ぼす影響をみれば、騒音発生の時間帯、発生の頻度、音量及び音質等の点において、他の航空機騒音とは格段の違いがあって、これに起因する精神的・情緒的被害、生活利益侵害の甚大さはそれまでには予想もできなかったものであり、しかも周辺住民や関係自治体の再三にわたる抗議、中止要請にもかかわらず、その後一〇年以上にわたり継続されてきたものであるから、一審原告ら請求の全期間にわたり、危険への接近の理論による減額は行わないこととする。なぜならば、危険への接近の理論による減額は、結局のところ衡平の原則に基づくものと考えられるところ、このような場合には、その適用の基礎を欠くに至ったものと考えられるからである。

以上によれば、一審被告は、W値八〇以上の地域に居住する一審原告らに対し、国賠法二条一項に基づき、本件侵害行為により右の一審原告らが被った損害を賠償すべき義務がある。そこで、損害額等について、以下検討する。

第八損害

一  損害額

1  慰藉料

一審原告らの本件損害賠償請求が一審原告らの共通の被害に基づき、かつ賠償額を一か月単位で算定していることに照らし、慰藉料額は一審原告らが居住する地域のW値に応じて一か月単位で一律に算定することとし、当裁判所が認定した一切の事情を考慮すると、次のとおり定めるのが相当である。

W値八〇以上八五未満の地域   五五〇〇円

W値八五以上九〇未満の地域   九〇〇〇円

W値九〇以上九五未満の地域 一万三五〇〇円

2  減額事由

一審原告らのうち、住宅防音工事の助成を受けた者は、被害の一部が軽減されていること及び補助金も相当な額であることを考慮して、施工室一室ごとに慰藉料額の一割を減ずることとする。

3  弁護士費用

一審原告らが本件訴訟の提起及び追行を弁護士である一審原告ら訴訟代理人に委任したことは、本件各記録上明らかであり、本件訴訟の難易度、後記の慰藉料認容額等諸般の事情を考慮すると、弁護士費用については、慰藉料認容額の一割をもって本件と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

二  一審原告ら居住地域のWECPNL評価

1  基準

一審原告ら居住地域のWECPNL評価については、近似値として、前記の生活環境整備法四条ないし六条に基づく第一種ないし第三種区域指定及び防音工事募集ライン、工法区分線によることとする。

2  W値ごとの検討及び基準日

(一) W値八〇の地域については、昭和五九年八月三一日までは昭和五六年一〇月三一日告示の第一種区域に相当する地域とし、昭和五九年九月一日以降は防音工事募集ラインの内側、昭和六三年八月一日以降は工法区分線による第I工法区域の内側で、それぞれ後記(二)の地域の外側にある地域とする。

(二) W値八五の地域については、昭和五四年九月五日告示の第一種区域に相当する地域とする(ただし、昭和五九年五月三一日告示の第二種区域に指定された地域については同日まで)。

(三) W値九〇の地域については、昭和五九年五月三一日までは昭和五六年一〇月三一日告示の第二種区域に相当する地域とし、昭和五九年六月一日以降は同年五月三一日告示の第二種区域に相当する地域とする。

(四) なお、W値九五以上の地域については、昭和五四年九月五日告示の区域指定の時点では本件飛行場内となり、昭和五九年五月三一日告示において初めて第三種区域(W値九五以上)が指定されるに至ったが、そのころ及びそれ以後において同区域内に居住する一審原告は存在しない。

3  個別的事情の検討

(一) 昭和五四年九月五日告示の第一種区域の外側に位置する一審原告らのうち、一審原告8、10、68、87、88については、同区域との近接の度合い並びに調査時点からの時間の経過とその後の本件飛行場周辺全体にわたる騒音状況の悪化等を考慮し、W値八五の地域内の居住者として扱うのが相当である。

(二) 工法区分線による第I工法区域の外側に位置する一審原告らのうち、一審原告79については、同区域との近接の度合い等を考慮して、昭和六三年八月一日以降W値八〇の地域内の居住者として扱うのが相当である。

三  本件損害賠償請求可能期間等について

1  居住開始日及び転入・転出日の関係で一か月に満たない居住期間が生じたときは、一五日以上のものは一か月として計算し、一五日に満たない者は居住期間に算入しないものとする。住宅防音工事助成に基づく減額についても同様に、工事が完了した日の属する月の日数が工事完了後一五日に満たないときは翌月から、一五日以上のときは当月から慰藉料額につき一割の減額を行うものとする。

2  本判決別表4記載の地域からよりW値の大きい地域に転居した一審原告について、その旨の事実主張がないので、従前の地域を基準として損害賠償額を算定する。

3  一審被告から住宅防音工事の助成を受けた後、他のW値八〇以上の地域に転居した一審原告について、転居後の事実関係に基づき算定した損害賠償額が、転居前のそれを超える場合は従前の額とする。

4  以上によると、一審原告ら主張の範囲内で、本件損害賠償請求可能期間は、別紙損害金目録の「賠償期間」欄のとおりとなり、その間の一審原告らの居住地、居住期間は、同目録の「対象地区内の居住期間及び居住地」欄のとおりとなる(なお、同目録記載の賠償期間中居住地に変動のない者については、「対象地区内の居住期間及び居住地」欄に居住地のみを記載する。)。

5  本件飛行場滑走路部分の改修工事のため、本件飛行場における航空機の離着陸がほとんど行われなかった昭和五四年一〇月から同年一二月までの間の損害賠償請求は、一審原告ら全員につきこれを認容しないが、右損害金目録には特にその旨を記載しない。

6  一審原告80青木ソノ、同青木宏之の被承継人青木正雄の生前の居住地(大和市深見三五六七番地)は、W値八〇はおろかW値七五の地域にも属さず、その外側に位置するから、同一審原告らの本件損害賠償請求は、これを認容するに由ない。

第九結論

以上の次第であって、一審原告らの本件損害賠償請求は、<略>記載の各一審原告に対し、同目録記載の損害賠償金及び遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、原判決主文第二ないし第四項を右の趣旨に従って変更し、右一審原告らのその余の請求を棄却することとし、また、一審原告80青木ソノ、同青木宏之の本件控訴及び当審における請求拡張部分並びに一審被告の本件控訴は、いずれも理由がないからこれを棄却することとする。訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用し、仮執行免脱宣言は相当でないので、申立てを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 野田宏 田中康久 高橋勝男)

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